戦国BSR

□動揺カクテル
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下弦の月が青白く軒下を照らす。

今日も特に何もなかった。良いことだ。

謙信さまはもうお休みになられたのだろうか?

そよそよと静かに風が髪を揺らす。

「かすがちゃん」

月から庭の方に目をやると慶次がすすきと酒瓶を持ってこちらへ向かって来る。

「……って!!その酒瓶は謙信さまのじゃないか!!」

「ちげーよ。謙信が俺にってくれたんだよ。」

「だからと言って……!!」

あの酒は私が情報収集のために遠出したついでに買ってきた酒瓶である。

それなのに、謙信さま……。

酒を保存しておく蔵に無数の酒がある。

慶次をあの蔵に連れて見せて差し上げたんだろう。

慶次にもあげようというお優しさが働いて私が買ってきたものが分からなくなってしまったのかもしれない。

……そうだと、いいな。

小さな希望を持とうとしたが、自分の買ってきた酒瓶を再び見ると深いため息が出る。

「綺麗なすすきだろ?それに、月も綺麗な下弦の月なんだし、せっかくだから飲もうよ。」

私のため息に気がつかなかったのか、隣に座って上機嫌に杯を用意して酒を注ぐ。

酒独特の匂いが周囲を漂う。

やっぱり、いい酒なんだな、だから買ってきたのにな……。

…………。

「お前は、飲むなッ!!私が一滴残らず飲み干してやる!!」

「わっ、ちょ、かすがちゃん!!零れるって!!」

自棄になって、途中まで注がれていた杯を無理やりとって飲み干した。

じんわりと広がる少し甘くてほろ苦い味。

「ぷはっ、慶次ッ!酒ッ!!」

「かすがちゃん、落ち着いて!謙信が起きるから!!」

「謙信さまっ!?」

謙信、という単語を聞いて我を取り戻した。

不覚……。慶次にこんな姿を見せてしまった。

「ちっ……。」

「あはは……。」

慶次が苦笑をして、再び酒を注ぐ。

杯を差し出し、受け取った。そしてまた杯を差し出す。

「ん?なんだ?」

「はい、乾杯。」

半強制的に私の杯と慶次の杯を軽く当て、酒を少し啜る慶次は月を見た。

「かすがちゃんっていつから謙信のこと好きなの?」

「なっ、なっ、何を言うかお前は!?」

「いやー、すっごい溺愛されてる謙信みると羨ましくて。」

「……。」

謙信さまに恋をしたのは、私が謙信さまを暗殺しようとしたとき。

涼しげな眼、凛とした声、整いすぎているほどの立ち振る舞いに私は恋に落ちた。

この美しい方にずっとお仕えすると心に誓った。

「……お前に関係ない。」

「そうだな。でも、かすがちゃんすごい輝いてる。」

「は?」

「恋する乙女は強いって聞くけど、それかすがちゃんの事なんだなって思ったよ。謙信のために強くありたいっていう気持ちがかすがちゃんを輝かしく飾ってる。」

「う、うるさい!!変なことを言うな!!」

「照れてるの?かわい……」

「それ以上口を開くと傷口が開くぞ。」

喉元にくないの先端を向け、強制的に黙らせた。

「……いいな?」

「あ、ああ。」

頬が無駄に熱いのを感じつつ、くないを懐にしまい、酒を飲む。
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