Novel

□僕と彼と女友達
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今日は、雄二と一緒に買い物に来ている。いつもなら霧島さんと一緒に来ないと血祭りに会う雄二だけど、今日だけは許可を頂いているらしい。
「どうやって許可を得たのさ」
「――ちょいと、裏技をな」
 その言葉に疑問を抱きながらも、僕と雄二はショッピング街を歩きまわっていた。
「お、あの服良くないか?」
「高いよぉ、もう少し安い、五着セットで五百円とかのがいい」
「安すぎだなそれ」
 でもそういうのあったら確実に買うしね!
 そんな他愛もない話をしていると、雄二は足を止めて立ちつくしていた。僕がそんな雄二の姿に首をかしげると、雄二は僕の手を引いて、立ちつくしていた店の中へと入り込んだ。
「いらっしゃいませー」
 入り込んだ先は女性用衣服店だった。こんな所に何か用だろうか?
「雄二? どうかしたの? あ、もしかして霧島さんにプレゼントを買う為に来たの?」
 ひょっとしたらそれが今日だけ許可された理由なのかもしれない。
「すんません」
 雄二がそう店員さんに声をかけると、店員さんは「はーいっ」と元気よく返事をして、僕らの目の前にたった。
「何かお探しですか?」

「ちょっと――コイツに似合う服を」
 そう言いながら僕の方を指差しやがりましたよコイツ!?

「いやぁハハ、まさか女装趣味とは思いませんでしてね」
「そ、そうなんですか……?」
「あ、あと下着もお願いします。『女装するなら下着まで』をモットーにしてるらしいです」
「は、はぁ……」
「雄二、僕が確実に変態になってるよね? 店員さんも顔を赤めてないで何か言ってくださいよ!」
「……(ぽっ)」
「(ぽっ)、じゃなあああああああいっ!」
「おい明久、店の人に失礼だぞ」
「男が着る女性用の物見繕ってもらう方がよっぽど失礼だと思うけど!?」
「だ、大丈夫です! 私はプロです! プロたるものどのようなニーズにも答えて見せる! それが私たちのジャスティス!」
「カッコよく言ってないでその考えをゴミ箱に捨てて一からやり直してください、まだ間に合います」
「と……というわけで、バスト、ウエスト、ヒップのサイズから測らせて頂きます――」
 店員さんは、ポケットからメジャーを出して僕のスリーサイズを測って行った……。
 
 
 **
 
 で、今は試着室の中だ。渡されたのは秋物の涼しげなワンピースだった。薄緑の綺麗な色遣いが大和撫子な雰囲気を醸し出している。――これを、僕が着なければ。
「はぁ……」
 溜息をついて、更衣室のカーテンを少し開けてみると、雄二がワクワクした表情で僕の登場を待っている。
「ねぇ雄二……こんなの僕が着たって気持ち悪いだけだよ……」
「そんな事はねぇと思うぞ? 実は翔子との約束は『明久を女友達にする』っていう交換条件でな」
「それをする意味があるのかどうかが疑問だけど、それは投げ飛ばして置いておこう」
 霧島さんはこれを条件に今日僕と雄二が遊ぶ事を了承してくれたんだ。感謝しないと……。
「――」
 覚悟を決め、ワンピースを着ていく。フワッとした生地がとても肌触りがよく、女性物の良さがなんとなくわかる一品だった。僕はそれを着終えるとカーテンを開ける。すると雄二は想像よりも驚きの顔で、僕を出迎えたのだった。
「――どう? 気持ち悪いだけでしょ?」
 そう尋ねると、雄二の後ろに居た店員さんが「わー、すげぇー」と驚愕の声をあげていた。
「――ああ、思った通りだ。

……お前、そこそこ見えるぞ」

 雄二のその言葉が、少し嬉しくて……
 
 赤面したのは、許してほしい。
 
 
 **
 
 手にある荷物は、先ほどのワンピースと別物の縞パンだった。これはコスプレ用で男性でも履くやつだと教えてくれたのでだいぶダメージは少ないが、それでも男が女性物下着を……くそう……!
「で、雄二。これ、お金良いの?」
 この一式は雄二が自腹で買ってくれた。霧島さんの為とはいえ、ここまでしてくれるのか……?
「まぁ、ここで俺が金払わないと翔子にキレられるし――何よりさ……

俺も結構楽しめたしな。これくらい礼してもいいんじゃねぇの?」
 ニヤリと笑った雄二が、僕の頭をその大きな手で撫でた。その行為がどこか嬉しくて――
 
「ありがと、雄二」

 僕は、出来うる限り最高の笑顔で雄二にそう、お礼したのだった。
 
 
 **
 
「……吉井、次はあそこ」
「えー、またぁ?」
 今日は霧島さんと遊んでいる。指定されたとおりこの間雄二に買ってもらったワンピースを着て。
「……その服、可愛い」
「あ、うん……男としてどうかと思うけどね」
「……吉井は、もう私の、女の子友達」
「――」

 雄二は、霧島さんの女の子友達を作る為にああしたのかな……。
 僕は霧島さんが今までどういう生活を続けていたとか、そういう事は知らない。せいぜいAクラスの面々とはソコソコ仲が良くて、雄二を愛しているくらい。でも――もしかしたら、雄二はそんな彼女の事を思って、友達を作ってあげたいと思ったのかもしれない。
 それが――ちょっと、むず痒く感じられた。
 
 ――この思いは、嫉妬なのだろうか。

 
「……雄二は、私の事を愛してくれてる?」
 霧島さんがそう尋ねてきたので、僕は「もちろん!」と答える。すると霧島さんは僕の目の前で「でもね……」と呟いた。

「――雄二は、それと同じくらい、吉井の事愛してくれていると思う」
 
 霧島さんらしくない、言葉だった。
 
「……うん!」

 だからこそ、本心なんだろう。霧島さんは雄二の事、何でも知っているんだ。
 
「――僕も、雄二の事大好きだよ」

 今ここに、同じ思いを抱いた二人が出会った。
 
 霧島さん、これからも一緒に、頑張ろうね。
 
 END
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