第参神饌所

□7月11日/ギン乱
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 乱菊とギンが向かい合って盃を交わしている部屋の隅に、昔懐かしい某アニメの蜜蜂キャラを模した気ぐるみが一着転がされている。

「で?何で勝負すんの?」

「そうねぇ…じゃぁ最後にこの徳利を空にした方が勝ち、ってのはどう?」

 乱菊は二人の間にあった徳利を目の高さに掲げて振ってみせる。水の揺れる音が耳に心地よい。が、ギンは乱菊の手から徳利を奪うと、直接口をつけてから自分の盃をなみなみと満たした。

「あかん、空にすんのもさせるっちゅうんも簡単やからな」

 傾きを戻すタイミングを僅かにずらすだけで机に酒が零れる。机に置いたままの盃に口を寄せて啜ったギンは一気に盃を干す。何度この徳利で酒を呑み交わしたかしれないのだ、残りの量は両者ともに勘で分かってしまう。それでもせっかく用意した気ぐるみの出番がないのは悔しい。乱菊は拳を作って軽く振り上げた。

「面倒ね、もうジャンケンで良くない?」

 話題をふった割にいい加減だと呆れるギンの前で乱菊は誘うように拳を振ってみせる。ギンは仕方なく乱菊の案に乗った。

「あたしの勝ちね。ギン、あれ着てよ」

 他には誰もいない酒席の余興だと割り切ったギンは、しぶしぶ死覇装を脱いで気ぐるみを着こんで元の場所に胡坐をかいた。

「なぁ、乱菊。一個訊いて良ぇかな?これ、なんでボクに合うとんの」

 自棄酒を呷る不審な蜜蜂を肴に手酌酒を傾けていた乱菊は、腹を抱えて笑いだした。

「そんなのギンに着せる為に選んだからに決まってるじゃない」

 乱菊は机を回り込んでギンの肩に頭を乗せ、黄色と黒の縦縞の腹を撫でた。このところお互いに忙しくて会う機会さえなかった。久し振りに会えたものの、乱菊からストレートに「抱いて欲しい」と言えるわけもなく、きっかけが欲しかっただけのだ、と上目遣いで甘えた声を出す。

「蜂って刺すものじゃない?だから、ね?」

「こないなもん用意して、もしジャンケン負けとったらどないする気やったんや」

 そりゃあ、と悪戯っぽく笑った乱菊は、ギンの手から盃を取り上げてから押し倒した。

「あたしには大きすぎるから着てみて、って言うに決まってるでしょ」

「どのみち着させられるんかい…」

 色気もムードも台無しな着ぐるみを押し付けられた挙げ句に、捻りのない理由でのお強請り。頭が良いのか悪いのか、素直なのか意地っ張りなのか良く分からない乱菊を抱き締め、ギンは溜め息に苦笑を混ぜた。

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