ギンイヅ詰め合わせ

□恋は盲鼻
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 資料を探そうと椅子から腰を浮かせた吉良は、はっとして再び腰掛ける。顔を赤らめて恐る恐る隊首席を窺うと、苦笑を浮かべた市丸と目が合った。
「気にせんでも良ぇ、言うたやろ?」
 朝から何度も、吉良は決して小さくはない破裂音−屁の音を立てていたのだ。
「派手な音するだけで臭う訳やないんやし…」
 昨夜は市丸に誘われるままに、吉良も心行くまで放埒な時間を過ごした。意識を飛ばした吉良が目覚めたのは早朝で、一刻も早く身綺麗に整えてもらった礼を述べたくて市丸を叩き起こしてしまったほどだ。
「イヅルのアソコ、弛うしたんはボクなんやから」
 甘い言葉に唆され流されて躰を披かされたのではなく、伸ばされた市丸の手を取ったのは、紛れもなく共に快楽を貪りたいと願った吉良自身なのだ。だからこそ、職務に忠実な副隊長としての吉良には、市丸ではなく自分が許せない。
「でも、やはり…」
 立ったり座ったりする度に景気良く放屁していては上官への礼を失するのだ、と耳から首まで朱に染めた吉良が言葉尻を濁す。
「ほな、栓しといたら良ぇん違う?」
「栓、って何を…」
 思わせ振りな笑みを浮かべて立ち上がった市丸が、自分の袴帯に手を掛けた。
「こっ、こんな昼間からっ…」
 吉良は慌てて首を左右に振った。放屁は止まるだろうが、それ以上に淫逸で大きな水音や声が漏れてしまう。吉良のモラルが許さない。
「んなこと言うたかて、イヅルの其処ちゃあんと栓したれるもん、コレ以外あらへんやろ〜?」
「確かにそうなんですが…じゃなくてですね!勤務時間中に執務室で、その…あの…」
 市丸が俯いた。吉良に気付かれないよう必死に笑いを堪えている。少し揶揄っただけでしどろもどろになる、いつまでも物慣れない初な吉良が可愛くて面白いのだ。だが、吉良はまんまと市丸の思惑に引っ掛かってしまう。自分が拒絶したと勘違いさせて市丸を落ち込ませてしまったのだ、と慌ててフォローを始めた。
「えっと、だからといって市丸隊長が嫌いだとか、そういうことが嫌なんじゃなくて、むしろ…!…僕、今、いったい何を…」
 自分の口走った内容に愕然として、吉良は何度も頭の中でリピートしてみた。見る間に額の生え際から死覇装の袷まで真っ赤に染まっていく。
「うんうん、イヅルは素直で良ぇ子やね。こないなとこで手は出さへんよ。気持ちだけで腹一杯にしてもらったからな」
 焦りの汗を浮かべた額に軽く口吻けてから、市丸は吉良の耳許で何度も可愛い子、と繰り返し囁いた。
「さっきのは嘘。んで、イヅルは屁の音も可愛らしいんやから、ほんまに気にせんでも良ぇよ」


2013.1.11

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