歌舞伎能

□思い立てば出会いの始まり
1ページ/3ページ


いつものように、各社から届く報告をギンはまとめていた
さして異常もなく、厄介な出来事も無さそうだと息を吐く
ギンの仕事は宇迦之御魂神、お稲荷様として祭られている神の使いとして、各社の使い狐達からの報告をまとめる役目に就いていた
宇迦之御魂神は穀物の神
人間達はその年の豊作を祈り稲荷の社へと足を運ぶのだ
今年も天気に恵まれ、豊作になるだろうと何処の社からも報告がギンの元へとやって来る
その書簡を脇へと置き、晴れ渡る空をギンは見上げた

「なんや、こう暇やとなぁ・・・・」

誰に言うでも無い呟き
何事も無いことは、平和で良いことだとは思うが、それでも平和すぎる日々も味気ない物である
視線を落とした先にある書簡へと、ギンは手を伸ばすと広げてみる
これと言って何か問題になりそうな事が書いてある訳でもなく、視線で報告を流し読む
すると、最後の方に気になることが書いてある

「ふーん・・・どんな人間なんやろか」

それは、最近その社へ毎日のように掃除をする者が現れたという内容であった
特に神社として神主がいる訳でもない小さな社にいる狐からの報告
しかし、それは暇を持て余していたギンに少しばかり興味を持たせるものでもあった

「ちょっと、覗きに行くくらいやったらえぇやろ・・・」

そう呟くギンの口が弧を描く
ゆったりと過ぎる長い時を生きる九十九神のギンにとっては、ちょっとしたお遊びのような事も必要である
報告に記された内容だと、その人間は朝方社へと掃除に来ると記されていた
それならば、思い立ったが吉日
明日にでも行ってみることにしようとギンは、気を取り直して仕事を再開させる
何事も、その後の楽しみがあればこそ目の前の事にやる気が起きるのかも知れない



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ