歌舞伎能

□或る午後の密事
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或る午後の密事
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「キミってどことなくイヅルに似とる気ィすんねんけど」
「はあ…そうでしょうか」


イヅルが居らん日はつまらん日。
今日は朝から雨で気持ちが上がらんゆうのに午後から霊術院の講師を頼まれた言うてイヅルが居らんようになってもぉた。
別に普段の仕事中ペラペラしゃべくっとるわけでもないんやけど、いつもそこにあるもんが無いゆうんは思うより寂しいもんや。

手もなんやいつもより進まんで、しょりしょり墨摺りながら呆けとったら間抜けな声がして他隊の子が入ってきよった。

その子は四番隊で七席をやっとるらしい。ぼけっとした顔して、意外とやるんやなぁ。
初めて見る顔や。
置き薬の補充に来た言うから箱だけ出して好きなようにさせて、また呆けてその子を見とったら、なんや、見たことあるような気がしてきよった。
ボクは記憶を掘り返す。
重たそうな瞼とか気合いの足りひん顔とか生白い肌とか。どっかで見た気がする。
いや、イヅルの方が格段に目付き悪いねんけど。

そんでもって出た答えが、冒頭のボクの台詞っちゅう訳や。


「一応親戚に当たりますので、似ていてもおかしくはないと思いますが…」
「イヅルと親戚なん?」
「はい、うちの母が吉良副隊長のお母様と姉妹なんです。なので従兄弟にあたりますね」
「ほぉ…」

成程な、道理でなんとなく似とる訳や。イヅルは瀞霊廷の出やから親戚居ったっておかしないもんな。
イヅルはお母ちゃん似や言うてたし、きっとこの子もそうなんやろな。


「花太郎クン言うたか。イヅルとは仲良えんか?」
「えっと、そうですね。小さい頃はよく遊んでましたし、今でも時々食事に行ったりしますよ。市丸隊長のこともよくお聞きします」
「せなんや…」


イヅル、ボクのこと誰かに話したりするんや。
ボクのことなんて言うてるんやろ。
気になるなぁ…。
聞きたいなぁ…。
大体今日かて普通に書類仕事するはずが、イヅルが霊術院の急なお願い聞くから悪いんやんか。
うん、ボクも好きなようにしたろ!


「なぁ、ボクイヅルの話聞きたい。薬の補充ウチで最後なんやろ?
「え、えっと…でも通常の業務がありますし…」
「大丈夫やて。もし怒られたら全部ボクのせいやて言うて良えし」
「そんな……。……えっと、少しだけで良ければ…」
「良え良え。ほな今お茶淹れたるわ」
「あああそんな構わないで下さい!むしろ僕が淹れますぅぅ」


イヅルの話も聞けるし暇潰しも出来るし、一石二鳥やん。これでなんとか今日一日は乗り切れそぉ。
まぁ残念ながら仕事の手は進みそうにないけどな。
講師受けるイヅルが悪いねん、全く。









******



後日…。


「あ、花太郎君!」
「あ、吉良副隊長」
「副隊長だなんて、そんな堅苦しくしなくて構わないよ。それよりこの間、うちに来た時に市丸隊長に引き留められたって聞いたよ。迷惑かけたね」
「あ、いえいえちょっとお話をさせて頂いただけですから」
「本当かい?その日の市丸隊長、すごく機嫌が良かったんだけど…一体二人で何を話したんだい?」
「えーと……、秘密です!」
「?」














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