歌舞伎能

□君が咲ふ(ワラウ)
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好きなもん?

干し柿、夏の空、真ん丸お月さん。
あとはそやなぁ…。

アタシは?
アタシの事は好きじゃないの?

アホ、乱菊は…。

何よ?

言うたらへん。

ギンの意地悪。

意地悪も好きやで。

ギンのバカ。

ふふ、バカもえぇな。

バカやって、いつも笑っとるんがえぇな…。

「バカもえぇな、て困るでぇバカは、な?喜助」
「ちょっ…酷い!ボクがバカって言うんスか?」
「お前はアホやな」
「はぁ〜、よかった、て、どう違うんです?」
「…平子隊長、ご丁寧に気配消して。浦原隊長までこないなとこで何してはるんです?」

新緑の眩しい統学院内の東屋。
乱菊が入学し、ギンは時々様子を見がてらここを訪れ乱菊と会っていたのだが、霊圧操作がまだ未熟だったのかよく知る人物を呼び寄せてしまったようだ。

「隊長さん?!」

5番隊席官であるギンはともかく、死神を志す統学院の学生に取って護廷十三隊の隊長とは天の上の人。
しかもその隊長格が二人ともなると青天の霹靂である。
しかし隊長羽織も身につけず着流し姿の二人はとても気さくな風で、あまり隊長らしく見えない。

「そやで、こいつの上司の平子や、こっちは12番隊束ねとる喜助」
「ども〜、浦原ス」
「松本乱菊です」

二人の隊長を前に物おじもせず乱菊が微笑む。

「おいギン、お前に彼女がおるなん知らんかったで。しかもこない可愛ええ子」
「ちゃいますよ、幼馴染です」
「照れなくてもいいんスよ〜、ボクたちも今日は非番でデートなんスから」
「アホ!で、デートちゃうやろ!飯食いに来ただけや!」

赤くなる平子に、まぁまぁ、と肩を抱こうとして浦原は殴られる。

「痛い!」

なに?この二人付き合ってるの?

多分な。
平子隊長がべっぴんさんやから浦原隊長がちょっかいかけて来るんや。

べっぴんさんって…、まぁ、確かに色気はあるわよね。

乱菊よりな。

ちょっ…!何よそれ!

「お二人さん、一緒に行くか?旨いもん食わせたるで」
「どうする乱菊、授業はええの?」
「行きたい行きたい!今日は午後からだから平気!」
「…食い意地張っとるし」
「何よ」
「けど、えぇんですか?デートの邪魔して」
「デートやない言うてるやろ!」
「照れることないじゃないスかぁ………痛い!」

かくして4人は連れ立ち、最近出来たという食事処へと向かった。



「ここ、ローズが出資しとる店なんやて。めっちゃ繁盛しとんな」

尸魂界には珍しい煉瓦造りの洋風な建物に入ると、若い死神の客層を中心に店は大繁盛だ。
白いエプロン姿の可愛い給仕に案内され、二人がけの椅子に平子と浦原、ギンと乱菊と向かい合わせに並んで座った。
一同はメニューを開き頭を突き合わせる。

「クロケット、カツレツ、オムレツ、ビーフシチュー…なんやわけわからん料理ばっかやな…」
「あたしカツレツ!」
「どないな料理か知っとるん?」
「ううん、でも何か元気が出そうな名前だから」
「それ以上出てどないするん…痛ぁっ!」
「ボクはカレーライスにします」
「ほなボクも」
「そやなぁ…オレは…う〜ん…オムレツ、シチュー、エビフライ?どないしよ…」

悩んでいる平子を余所に乱菊は早速給仕を呼び止め注文を始めている。

「あと平子隊長だけですよ〜」
「早…。あ〜、ほな…ビーフシチューで」
「かしこまりました」

給仕が行ってしまうと暫し4人は無言になる。
互いに互いを観察し合い出方を伺っている。
その沈黙を破ったのは意外にもギンだった。

「…隊長、アト付いてますよ」

自分の左側の首筋をつつき場所を示すと、浦原と乱菊の視線がサッと平子に集まった。
真っ赤になった平子は咄嗟に示された箇所に手をやるが、それを浦原に阻まれる。

「あ、ほんとッス!昨日は燃えちゃったから…痛い!」

可愛い人ね、平子隊長って。

せやろ?人気あんねん。
特に、男にな。

ギンも好きなの?平子隊長。

好きや。
めちゃええ人やし。

ふぅん…。

「お待たせいたしました」

混んだ店内にも関わらず比較的早く運ばれて来たのは注文の際に平子が隊長であると知られたからなのか。
それぞれ頼んだメニューを前に腹の虫が鳴る。


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