立ち読み

□LAN・イントロ
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 ドアを開けて大きめのショルダーバッグを後部座席に投げ捨てると、
「あー疲れたー」
 ドサッともドカッとも表現出来る派手な悲鳴を上げたシートへ凭れると、乱菊はリクライニングに沈み込んだ。
「お疲れサン」
 濃いブルーのプライベートガラスを嵌め込んだドアが閉まるのを合図に、車が静かに滑り出した。古い型のワーゲンだが、すこぶるコンディションが良い。手間も暇も金もかけて手入れされているからだが、流石に年代物とあって、あちこちのパーツが交換されている。
「ちなみに、今日の変装…ううん、仮装用のカツラのコンセプトは?」

 倉庫を改造した撮影スタジオまで迎えに来てくれ、と乱菊からギンへ連絡が入ったのが一時間前だった。マキシ・シングルのジャケットの撮影だった。シングル、アルバム問わずダウンロード曲が売れ筋な時代に、敢えてハードの形態を貫くのには訳がある。

 ギンはギアをトップに入れた手で、僅かにサングラスにかかる前髪を綺麗に左へ流した。
「ヤリ手のリーマン」
「だから真っ黒のダサい七三分けなの?」
「そ♪」
 後ろに手を伸ばして放り投げたバッグからミネラルウォーターを取り出すと、つまらなそうに鼻で返事を返した乱菊は、撮影でカラカラに渇いた喉を潤した。




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