フェイク
□あえかなる亡国
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「総、」
澄んだ声で俺の名前を呼ぶのは同級生の永倉真宮(ながくら まみや)。
変声期前の声を俺は知らないが、まだ終えていないように高いところのあるその声を間違えたことはまだ一度も無い。
まだ荷物を鞄に入れている俺の前に立って、真宮は待つ姿勢を見せる。
かと言って俺は帰り支度を急ごうとはせずに悠長にこの一週間分の荷物を押し込む作業を続ける。
文句も言わず真宮はそれをぼうっと眺めながら、手持ち無沙汰に口を開いた。
「今日からだな、」
夏休み。
「ああ。」
顔をあげずに返事をする。
窓際の総の席に良い風が入った。
真宮は窓の方を見て目を細めた。
「またお互い暇だったら、課題でもやる為に集まろう」
荷物を入れ終えて、そうだな。とか適当な返事を頭に思い浮かべながら何気なく真宮の方を見た。
開いた第一ボタンから一筋、流れる汗が目に入る。
思わず下を向いて鞄のチャックを乱暴に閉めた。空気が何度か上がったように顔がわずかにほてる。
「っ、──暑いな」
言わなければ良いのに言い訳が口をついて出た。案の定真宮がこちらを見た。
「うん、暑い」
真宮の返事に、全く暑いと答える言葉にいやに力が籠もってしまう。
それを知ってか真宮は薄く笑う。
微笑むような、呆れるような、憂いるような、その微笑に総はたまらなく弱い。
どきり。
心臓が痛そうに身をよじる。
俺は本当に、こいつに弱いのだ。
自嘲して紛らわそうにもかき乱された気持ちは収まらずに泣きそうに鳴く。
振り切るように鞄に視線を移して肩に掛けた。ずしりと重い。
「帰るか」
真宮に笑いかけると、真宮は頷いた。
眉が下がっていたのは暑さのせいだと勘違いしてくれていれば良い。