フェイク
□あえかなる亡国
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真宮の言うとおり、総の家は風通りが良い。
木造建てで横に広い家には二階が無く、お寺みたいだと幼い頃の同級生に言われたりした。祖父が早い内に亡くなり、残った部屋は総の部屋にあてがわれた。
祖父によく目をかけられていた総も、明治時代の文豪が使うような物書き机が気に入っていた。
長い廊下を横切ってキッチンに入ると、母がもう夕飯の用意をしていた。
「あら、おかえり」
「ただいま」
顔も見ずに冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す。
コップに注いでいると、母がため息混じりに口を開いた。
「あんたも今日から夏休みか、長いわね。」
「弁当が無いから楽だろ」
一杯目を一気にのどに流し込む。
「お盆のことを思うとねえ、」
ぐっと麦茶で喉がむせる。
「げほっ、ごほっ…」
どうしたのよ、と母親の目が訝しげに総をみる。
けど頭の中はすっかり忘れていたそのことでいっぱいだった。
「お盆…」
「そうよ、今から厭になっちゃう」
「え、あのさ、由香里も来るの?」
「由香里ちゃん?来るんじゃないの、アメリカ行ったって言ったって、死んだ分けじゃないんだから来れるでしょう」
「死んだって…縁起悪い冗談言うなよ」
「はいはい」
母の振る手に追い払われるようにしてキッチンの暖簾をくぐる。
真宮と取り付けた約束の喜びもすっかりしぼんでしまった。