いち

□タオルをわたすその瞬間
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ボクシング部マネージャー兼武田一基の彼女である名前はすごく人気がある。



明るく優しい性格は誰からも好かれ、同性ばかりでなく異性からも評価が高いのだ。


それが一基の不安要素でありのは言うまでもないだろう。















「武田せんぱーい!!帰りましょうっ!!」




名前の姿を視界に入れて、自然とにやける顔を必死に引き締める。




「はやかったじゃな〜い!!」




「えへへ」




頭をくしゃくしゃと撫でてやると嬉しそうに笑った。



あー…なんでこんなにかわいんだろ。




赤くなった顔がバレないように手を引いて歩き出した。







珍しく、綺麗に夕焼けで赤く染まった空がいつもの帰り道を照らす。







「先輩先輩、」




「ん?なんだい?」





「好きな瞬間ってありますか?」





顔を傾げて聞く名前。


ああああぁぁぁ
そんなの君と2人でいる時間に決まってるじゃないか!




「…私はあるんですよ」


黙り込んでしまったらしい僕のかわりに名前が話しを続けた。





赤い空を見上げながら彼女は言う。




「私、武田先輩にタオルを渡す瞬間がすごい好きなんです。」





「へ?」




何を言ったか理解できなくてまた黙り込む。






「ですから、武田先輩の練習の後にタオル渡すのが好きなんです!」




ちゃんと理解できた。

でも…




「なんで?」




素朴な疑問だった。




「やっぱり部活の武田先輩ってすごく格好いいってゆうのが一番です。それと先輩人気あるでしょ?だから、私のタオルだけもらってくれて私だけに『ありがとう』って言ってくれるのが幸せって言うか嬉しいとゆうか…」




「…」





なんか語っちゃって恥ずかしいです。すいません。と苦笑して顔を背けてしまった。




なんだ。名前も不安だったのか。お互い様というやつか。

僕が好きなのは君だけなのに。

同じ心配をしていた彼女がとても愛おしい。






クスリと笑って顔を背けた名前の頬に手を添える。





「せんぱ…んん」





不意打ちにしたキス。







夕焼けが僕達を優しく包みこんだ。











おわり
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