えすえす

 
お話になりきれなかった子たちやネタや設定のごった煮場
名前変換はできませんのでご了承ください
◆類似品 




※落乱/善法寺
※暴力表現注意




あいしてるとごめんねは似ている。
それが、あたしの母親の口癖だった

ごめんねはあいしてるととってもよく似ているから使いどころが難しいのよと
か細い声を絞る母親の体はいつだって傷だらけで
両の鼻穴から血を流し、青痣持ちの腕を引きずり、強引に引き裂かれた着物から乳房がはみ出しているにも関わらず
そんな彼女は至極幸せそうに笑うのだった
思わず顔を背けたくなるくらい酷い姿であたしを抱き締めては、
だから、おとうさんのこと嫌わないであげてね。と
至極至極、幸せそうに笑うのだった

母親が愛されていたとも、父親が振るう暴力が愛情でないともずっと昔にわかっていたのだけれど
彼女の口から飛び出すそれは、今思い出しても幸福の色にしかならなかったから
あれを愛だと語る母親の子であるなら、あたしもそうするのが良いのだと
今までの人生を踏み間違えた道順のまま歩いてきた


ところがどうだ。この男はあたしの愛情を殺すと言う
彼のために作った愛たちに消毒液を吹きかけ、固まりかけの赤黒いそれらを丁寧に丁寧に取り除いては
優しく包帯を巻き付け、はい。お終い。と、微笑う
きっとこの包帯の下で愛たちは呼吸ができない痛みを発して悶え苦しみ
その末に死んでしまった亡骸は、ぐずぐず溶けて包帯を取る頃にはもうすっかり跡形もなく消えてしまっているんだろう
そんな酷いことをして尚彼は言う

「あぁよかった。綺麗に治った」

と、涙すら浮かべてそう微笑う
母親とは違い、縋り付くようにしてあたしを抱き締めては
何度も何度も、あたしの名前を、苦しそうに呟きながら。


「伊作、」


だからいつも教えてやろうとするのだけど、


「いさく」


こんなとき、彼はいつも
至極至極、至極至極至極至極、


「…」


悲しみのうちに沈んでは
今にも死んでしまいそうな気さえ、するので


「…伊作」










「ごめんね、伊作」



あたしはまた
愛情の類似品で彼を救い上げるのです

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いたいのいたいの、とんでゆけ

2013/11/20(Wed) 22:04 

◆Malboroの男 




※krk/紫原
※三十路のおじさんむっくんが居ます注意





超がつく程甘党な彼のことだから、煙草なんて吸わないと思っていた

透明な硝子の灰皿の中で無残に潰れた吸殻と、残り僅かになった小さい箱を眺めながら
あたしは静かに雨の音を聞いていた
鼠色の空から降り注ぐそれが、彼が住むアパートの窓に潰れ崩れていくのを
ただただぼぅっと、聞いていた

「煙草」

「んー?」

「似合わないから、やめなよ」

キッチンから響く随分と間延びした返事は
到底今年三十路になろうかとする男性のものとは思えないくらい幼くて
今彼が作っているであろう甘ったるいくらいのココアの匂いが鼻をさせば
あたしと彼は十分に、同い年であるような錯覚をさせるのに

「え〜?煙草嫌いだったっけ?」

「嫌いだったらキスしたときにぶん殴ってるよ」

「じゃあいいじゃん」

「だからさ、煙草似合わないんだって。紫原さんには」

むらさきばらさん。言いづらいほど長い名称
しかし下の名前で呼べるほど親密でも特別でもないあたしにはお似合いの呼び名
有耶無耶な彼と、空っぽなあたしを隔てるには
丁度いいくらいの、それだけの言葉


「昔さぁ、言われたんだよね」

ふたつのマグカップを大きな手で持ち
あたしの横にどすんと腰を下ろす彼はいつも猫背
猫背になって、あたしを見下ろして、
合わせられた目線は、嘘つきの色をしている

「マルボロを吸うひとが好きって」

「…」

「ロンググッドバイの、フィリップ・マーロウのようで素敵って」

「……誰それ」

「さぁ?俺にもわかんない」

ゆるり弧を描いた彼の口元が
愛おしそうに困った目尻が
いつだってあたしの首を締め上げる
ぎりぎり、ぎりぎりと
あらん限りの虚無感を乗せて

「ま、あれだよ」

「…」

「オコサマにはまだ早いってこと〜」

そう言いながら頬に添えられた手を
振りほどけるほど、確かにあたしは大人じゃない
大人になんてなれない。彼に追いつくなんて、できない。


だから、まだいまは、


「…そうかもね」







彼の左手薬指で光る指輪については
子供のあたしに、言及なんてさせないで

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(重なる唇の間でまた今日も)
(あたしの愛だけがしんでいく)

2013/11/10(Sun) 11:13 

◆劈く 




※krk/緑間
※年齢操作、ifの世界設定注意





いずれきみが、大人になる頃わかるだろうと
背を向けた先生の静かな声が狭い病室に響く
気味悪いくらい真っ白なこの場所で白衣を翻せ先生は
そんな陳腐な、言葉を盾にする

「その想いは幻想なのだよ」

「せんせ、」

「触れ合う異性が俺以外に居なかった故に出来た、偶像だ」

麻酔薬の匂いと、点滴の落ちる音
心拍数の単調なリズムに合わせるように広がるのは、白に埋れた様々な感情たち
ここは私の世界の全て、ここは私の命を繋ぐ棺桶
触れ合う人など、一握り

でも、

「なら、おとなってなんですか」

「…」

「歳が離れてるから、医者と患者だから、そう割り切ることが、おとなですか」

確かに私はここしか知らない
こんな気持ちを抱く相手も、先生くらいしか居ない

じゃあこの気持ちはどうなるんですか。
このまま実ることも朽ちることもせず
私のように一生をベッドの上に横たえ
ぐずぐずと、熟し過ぎた末に腐るのみですか。
そもそも私が先生の歳まで生きているかなんて
そんなこと誰にも、わからないじゃないですか。


「先生」


だからお願い。お願いよ。


「好きなんです。先生」


いずれ腐る想いなら
いつか途切れる生ならば



「……せんせい、」


受け入れてくれなくてもいい
切り捨ててくれてもいいから、だから、




「わたしを、みてよ」





ただの子供を劈くこの悲鳴を
どうかどうか、誤魔化さないで。

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おとなになんて、なれないよ。

2013/11/03(Sun) 14:57 

◆わらって 




※庭球/千歳
※似非方言注意





携帯を持つ手が悴む
吐き出す息は白く、凍りついたままあたしの横に雪崩れ込むようにして
潰れた卵黄のような鈍いオレンジを塗り潰す夜の中に消えていった


「うそつき」


北風に擦られ真っ赤になった鼻を気にしながら放った一言には
案の定受話器越しに乾いた苦笑いが返ってくるため、尚腹が立つ

「怒っとると?」

「当たり前」

「デスヨネー」

「笑い事じゃない」

「そぎゃん怖か声出さんで、いつものむぞらしか声聞かせてほしか〜」

「うるさい。千歳のばか。嫌い」

でくのぼう。めんどくさがり。てにすばか。ほんとにほんとに、あいそがつきた。
口から飛び出すのはそんなちくりと痛い言葉ばかり。あたしと千歳の、どちらも傷つけることしかできない言葉たちばかり

「一番に来るっていった」

「…」

「一番速いバスに乗って帰ってきて、一番に会いに来るって、言った」

ああ、ああ、ちがうの
ほんとはね、こんなこと、きみに会って言いたかった

「だから、あたし、待ってたのに」

きみの大きな体にしがみついて、到底届きはしない胸板をぽかぽか殴りながら
積もりに積もった苦言悪態、ついてやるつもりだったのに

「三時間も、まってたのに」

それからそれから、
会いたくて会いたくて、どれだけさみしかったか言ってやって、

「……ちとせなんかきらい」

こんな風に
涙を零して困らせてやるつもりだったのに

冷え切った夜空に一番星が輝く
淡い淡い光は涙の中にじわりと溶け込んで
滲んで消えて、目尻から千切れて飛んでいく
凍りついた吐息と一緒に、夜の中に雪崩れ込んでいく


「あと10歩たい」

「…は?」

「その間にとびきりむぞらしか顔、用意しときなっせ」

10、9、8、

耳元で始まるカウントダウンにただただ困惑するばかりだったけど
それでも、煌めく一番星が、潰れかけのオレンジが、夜に沈みゆく空気が、

7、6、5、

それより、なにより、

4、3、2、1、

後ろに感じる、ぬくもりと影が


「…あーあ。こりゃあずいぶん、むぞらしか顔とね」

あたしの目元をごしごしと拭う手と上から降ってくる同じ苦笑いに
引き攣る喉を動かして返せたのは、うるさいの一言だった


===============

ごめんね。だからもう、わらってよ。

2013/10/28(Mon) 20:41 

◆居る。 




※落乱/善法寺
※現パロ微ホラー注意






「だめ」



ぴたりと止まる体に合わせ
カッターシャツの裾が後ろに引かれる
振り返ればそれは彼女の小さな手で、夕焼けを背負っているせいかどんな顔をしているのかはよく見えない


「どうしたの?」

「伊作、だめ」

「…?」

「ここを通っては、だめ」


淡々と紡がれる声がいつもの彼女とは違うとすぐに気づいたのだけれど
ここは家へ帰る途中の、何でもない日常的に通る道で
そりゃあ確かに人通りは少ないが、住宅街に伸びる道なのだからさして気にすることもない

また何かの冗談なのかとも思った
しかしそれにしては彼女の声は物悲しく



「お願い。この道は、だめ」



あんまりにも、僕でない「誰か」を警戒しているみたいな口ぶりで。







「伊作」

「……え?」

「別の道を行こう。早く」

「…どうして?」

「…」

「一体、何があるって言うんだい?」


そのとき僕は漸く気がついたのだ
沈みかける夕日が傾き、露わになった彼女の目が
僕ではないその先を、前を見なければわからない「向こう」を見ていること
その目はじっと、逸らされることなく真っ直ぐであること
それから、それから、



「ーーーー…居るの」



そう話す、彼女の手が






「さっきからずっと、女のひとが伊作の後ろに張り付いて居るの」






小刻みに震えていることを。


===============

いのちびろいを、したな、少年

2013/09/13(Fri) 16:51 

◆化かす 




※落乱/潮江






お前は元がそこそこなのだから、きちんと化粧をすればいいだけじゃないか

またも女装の実習で追試を食らった俺を散々腹を抱え笑った後に、あいつはそんな風に零してまた笑った
それが世辞にせよ世辞でないにせよ追試には変わりないし六年にもなって追試を食らうハメになっていた俺は些か気が立っていたので
そんなに言うならお前がその“そこそこ”を上手く生かしてみせろ、などと
普段なら決して言わないようなことさえも、つるりと口滑らせてしまったのだ


「文次郎、紅」


俺のものより一回りも小さい手が差し伸べられ
横にあった真っ赤な紅を置いてやると、するするあいつの元へ帰っていく
真正面に座るあいつはさっき俺を小馬鹿にしていたときとはまるで別人のようで
真剣そのもののような顔をしては、芸術家か何かのように、精巧に、
一瞬でも自分の作品を壊さまいと手を入れる
顔に粉をはたく手つきは優しく、髪を結う指は細い
細工を施すために寄せられた顔にある、真っ直ぐ此方を見る目玉の中には、ただただいいようにされるばかりの、俺が居た


「口を開いて、薄くね」


あいつの中指の腹を真っ赤に染める紅がゆっくり迫るのを
体を渦巻く熱と重ね合わせては、生唾を飲む自分に
この脆弱者が、と
罵り笑う声が聞こえた気がした

===============

好きな子にお化粧を手伝ってもらってドキドキするもんじって可愛いなって思って。
夢見過ぎなのは知ってますよ…

2013/08/15(Thu) 21:44 

◆幸福 




※op/火拳






貴方は毎日のように、あたしに愛してると言いましたね。
俺がいつ居なくなってもいいようにと、俺がいつか言えなくなってもいいように、と
貴方からの愛の言葉はそれはそれは飛び上がるくらい嬉しかったのだけれど
でも、その後にひっついてくるその言葉たちがさみしくて、かなしくて、
あたしは毎日のように我儘を並べては、貴方を困らせてばかりでしたね。


そんな毎日は夢の様に幸せで
ふたりでひっつきながらベッドに入ったのも、一緒に寝坊して怒られたのも、喧嘩をして口をきかなくなったのも、その後気まずそうに謝る貴方が可愛くて笑ったのも
全部全部、砂糖菓子のように輝いて
あたしの頭の中に、めいっぱい詰め込まれているのです。


幸せでした。兎に角、兎に角、幸せでした。
貴方との記憶は、思い出は、毎日は、人生は、
どれひとつ取り零せない、あたしの中の全てでした。
貴方から貰った愛の言葉も、その後についてくる少しほろ苦いさみしさも
今思えば、貴方から貰える幸福の一欠片でしたね。



ところで、貴方はどうですか?

幸せでしたか。幸福でしたか。

むかし夢に描いたような、あいのあるひとにはなれましたか。



今はまだ答えはわからないけれど
毎日貴方を想えば、いつか思い当たるかしら
男なんか星の数ほど居ると、世間は笑うかもしれないわね
それでもね、あたしにとって、貴方は世界でたったひとりだったのよ。

ねぇ、エース


「……るわ」


いまなら貴方の言ってたことが
少しだけ、わかる気するわ








「愛してるわ。エース」


だからほんのちょっとだけ
貴方を想って、泣かせてね。

===============

愛を望んだ彼の最期に。

2013/08/11(Sun) 23:57 

◆慣れ 




※krk/赤司





「悲しみに慣れないのは、ほんの少しの希望の味を人間がいつまで経っても忘れないからだよ」

相変わらず何を考えているかわからない彼の口から飛び出たそれを
あたしは大変よくわからない様子のまま生返事で受け止めて
それで、それから、漸く小難しい精密機械のようなそれらを
頭の中で、ゆっくりゆっくり分解していくのだった


「待って」

「?」

「今ね、簡単になるように崩してるの」

「そうか」

「あたし馬鹿だから。だから、もう少し、待ってね」

「ぼくはお前を馬鹿だと思ったことは一度も無いよ」


優しい声色はあたしの心臓をむずむずと擽らせて
彼の滑らかな指が頭を撫でるから
確かにこんな気持ちをすぐに忘れてしまうのは
とても難しくて、とても大変なことなんじゃないかと
少しだけだけど、そんな風にぼんやり思う


「お前は頭が良い。お前が思うよりうんとね」

「ほんと?」

「ああ」

「あたしが頭いいと、征十郎嬉しい?」

「ああ」

「じゃあ、」


征十郎はいま、かなしいの


ぴたりと止まった手とは逆の、もう一方の彼の手が
退部届と書かれた白い紙を何枚も巻き込み、ぐしゃりと音を立てる

それでも彼は笑っていて、
なんでもないみたいに、恐ろしく整った笑顔で、わらっていて







「大丈夫。もう慣れたさ」


===============

希望を知らない少年

2013/08/09(Fri) 01:12 

◆死に損ない 




※落乱/潮江






「死なせてなんかやらないから」



刹那、拳がめりこんだ頬は熱を帯び
閉じかけの瞼はびっくりして飛び起きる

「小平太が待ってるのよ。あんたとバレーしたいって、待ってんの」

「……」

「小平太だけじゃない。仙蔵だって、伊作だって、留三郎だって長次だって後輩たちだって、みんなみんな待ってんの」

「…、」


顔に似合わない乱暴な物言いはどこか幼子の名残を思わせるように幼稚に聞こえ
震える声は、怒りというよりは寧ろ、




「勝手に死ぬなんて、あたしが許さない」

未だ硝煙の燻る戦場に
何故かよく通るあいつの声は
必死に縋るように、耳の奥で唸る

「起きなさいよ。生きなさいよ。」

返事をしてやろうにも喉が動かず
虚ろな目だけが今にも壊れてしまいそうなあいつを捉えた


「ーーー…死なないで。文次郎」








わかってる。
だから、そんな風に泣くんじゃねぇ。



================

潮江の男気に惚れない人っているんですかね…

2013/07/14(Sun) 16:38 

◆怖がり 

 

※落乱/雑渡






「忍者に一番必要なのは、恐怖する心だよ」


そうは思わないかい。と投げかけられた言葉に
あたしは半ば呆れながらはぁ、とだけ返す


「痛みが怖い、傷つくのが怖い、死ぬのが怖い、そういった恐怖を持っていれば自ずと人間は強くなる」

「そういうもんですかね」

「あらら、随分と投げやりじゃないの」


そう言う割には組頭の目元は愉快そうに細められていて
それがまた癪に触るのだけど、どうせ何言ったってこの人には暖簾に腕押しなのだから
あたしはいつも、紡ごうとした不満を口の中で転がすに留まる


「お言葉ですが、恐怖心は戦場で一番の敵になるのではないかと」

「一応三禁だしねえ」

「なら、」

「それでもさ、何かを守るために武器を持った人間は強いよ?」


特に、自分を守るとなったらいっとう、ね。

くつくつと笑う声が包帯の下でくぐもるのを聞きながら
それはあんたが言えたことなのかとは、やっぱりあたしには言えなかった



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夢要素ってなんだっけ(白目)

2013/05/04(Sat) 11:55 

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