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□一曲、弾いてあげようか
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川辺で聞こえてくるつたないリコーダー。
音はかすれているし音程も不安定。
息を吹きかけるだけのひどく単純な楽器がどうしてああも難解なものになるのか。
興味深く眺めながら少し距離を置いて腰をおろした。
何年触っていないだろう。
ふと物思いに耽りながらその必死な様子を横目でもう一度見る。
押入れの中にきっとうずもれているかもしれない。
帰ったら探してみようか。
すぐに首を横に振って考えを否定した。
どうせ弾ける曲なんてたかがしれている。
リコーダーを持ったところでいいとしをして何をしてるんだと悲しくなるかもしれない。
勝手な物寂しさを抱いている間にリコーダーの不協和音はいつの間にか止まっていた。
もうあの少年は帰ってしまったのだろうか。
先ほどのようにちらりと横を向いてみれば予想外なことに少年もこちらを向いていた。
視線が重なった
二コリとはにかんだように笑いかけられてついついつられて笑顔が浮かぶ。
「リコーダー好きなの?」
問いかけられて、どうしてか素直にうなずいてしまった。
あまりにも警戒心もなく聞いてくるものだから・・・・
「何の曲が好き?吹いてあげるよ」
リクエストを受け付けてくれるという少年への答えはすでに決まっている。
「さっきの曲、もう一度聞かせて。」
君と時間を共有することになるなんて思わなかったけど
この素敵な時間に出逢わせてくれた一曲をもう一度リクエストしよう。
タイトル:(c)ひよこ屋
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