開けてはいけない扉もあるよ?

□砂時計
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抱きしめたら 壊れそうな気がした・・・・


【砂時計】

春を待つ存在はどれほどだろう。
草木や動物、もしかして人間も春を待ち望んでいるのだろうか。

「寒っ・・・・。」

窓を開けていたので、部屋の温度はだいぶ下がっていた。
それでも、この寒さが次の春へと続く礎になるのだと思うと不思議と嫌ではない。

「ヤス、詩の方は終わったの?」

少し低めの声が頭の方から聞こえてきた。
寒さを緩和させるようにゆっくりと体を包み込んでいく。
頭の芯から響くこの声は、どれだけ聞いても飽き足りない。

「もう少しかなー。ホクが作った分はもうできたよ。多分パソコンの方に送ったから、後で確認しておいて。」

「やること早いねー。」

「そうでもないよ。ホクさんの作る曲と相性がいいだけだよ。」

「俺とは?」

「は?」

「俺との相性は?良くない?」

拗ねたような目で見つめられると、こそばゆいものがある。

「良くなかったら、一緒にいないよ。」

こーいうことを言うのは、さすがにきついな。
俺を何だと思ってるのよ。
でも、俺の返事に安心したホクの顔は、とても幸せそうで。
文句を言う気も萎えてしまった。

「それ聞いて安心した。」

「ホクは毎度聞くよね。そんなに不安?」

「んー・・・、この時期特有じゃないかな。」

「冬特有?」

「そう。人はさ、夜眠って、朝必ず目が覚めるって思ってるけど、そうとも限らないんだよね。」

少し寂しげな目が外に向けられた。

「目が覚めない時が必ず来るんだ。それは今日かもしれないし、10年後かもしれない。」

「・・・・・。」

「そーゆうこと考えたことない?人はいつ死ぬのかっていうようなこと。」

「そうねー。考えないことはないかな。」

「そう思うと、ヤスは俺といてよかったかな、今夜俺に抱かれていて幸せだったかな、とか思っちゃうわけ。」

抱きしめたら 壊れそうな気がした
目を閉じたら 消えそうな気がした

それはいつかに作った、春を待ち望む歌。

「ホクは自分じゃなくて、俺のことを考えているわけね。ホクがこうしたかった、とかじゃなくて。」

「ヤス優先だからね。仕事もだけど。」

「いや、そこはメンバーも大事にしてあげて。」

二人で向き合ってケラケラ笑いあった。
こうやって笑い合える日はどれくらい続くのだろう。
1年間?10年間?30年間?
限りない時間も不安を呼ぶが、限られてしまうとまた不安になる。
あと少し。
あとちょっと。
もうちょっと。

「人はいつだってわがままだからなぁ。」

少し頼りない胸に頭を寄せて、ボソッと呟いた。

やがて春が来て 割れる砂時計なら・・・・

春は旅立ちの季節でもある。
少しだけ鼻の奥がツンとした。

「もう少しだけ、一緒にいさせてくれないかな。」

神様おねがいします。
どうか、もう少しだけ。

「そうだね、俺もそう思うよ。」

ホクがそうつぶやいた。

END
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