ストラムメッセンジャー
□スラップスティックコメディ
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* * *
「実際さぁ、バンドやったらモテるなんて都市伝説だよなー」
「バンドやってるだけで、女が選り取りみどり! なんて普通に考えてあるわけないじゃん、バカじゃん」
「でもー、その辺、やっぱり夢があるっていうかぁ」
「サッカー部にでも入って、レギュラーになってガンガン活躍すりゃどうにかなるんじゃね。いや、モテモテーみたいな感じにはならない確率のほうが高いと思うね!」
「ユキトは夢がないなぁ……」
「真(マコト)が無駄に夢見がちなだけなんだよって! てゆうか、何の部活に入ってるかでいちいち評判左右されてたらたまったもんじゃないってんだよ!」
部室に入った途端、聞こえてきたのは真(マコト)とユキトの口喧嘩だった。
口喧嘩、というか、真がのらくらとつぶやくのに、ユキトが電光石火の勢いでツッコミをいれる、というおなじみの会話スタイル。
総司(ソウジ)は2人のそばでただ黙っている。
総司はだいたいいつもこんな調子で、やたら大人びた雰囲気を漂わせながら2人とは一線を画している。
ユキトはとにかくせっかちで短気な男で、もちろん会話の速度も速い。
素早く大量に話すため、何いってんだか聞き取れないこともしばしばある。
「え? 今なんていったの?」
なんていおうものなら、早口で逆ギレされたあげく「バカじゃない、もういい」とかいわれて会話が終了するおそれあり。
ユキトとは対照的なのが真で、真は基本的にのんびりおっとりおおらかな男。誰に対してもきつく怒るってことをしない。
どう考えても相性最悪としか思えない2人なのに、何故か仲は良い。
…仲が良いのは結構なんだけど、お前ら部室にいるんだから、井戸端会議はやめて部活動をしようぜ! 部活動を!
ギターを抱えて椅子に腰かけている真の足元で、ユキトもギターを片手に持ちながら床に座っていた。
どちらも、だらーっとした体勢で、そのギターは持ってる意味あんのか? と聞きたくなる。
総司だけがヘッドフォンを耳にかけながらベースを黙々と弾いていた。総司は本当に偉い。
ちら、と部室の窓から外を見れば、野球部の連中がキャッチボールをしているのが見える。
サッカー部の連中が校庭のトラックをぐるぐる走り回っているのが見える。
吹奏楽部の連中が並んで楽器を吹いているのが見える。
ほら、他の部活のやつらは活発に青春してるよ。部活の時間なんだから、部活をしなくちゃいけないだろ俺たちだって!
…とかいうと「一星はクソ真面目だなぁ」っていわれるのが目に見えてる。
「――あ、一星なにやってんの、遅かったじゃん!」
ぼーっと突っ立っていた俺の腕をユキトが引っ張る。
「呼び出されてたんだよ。そんなことより、ユキトも真も、あれを見てみなよ」
俺が窓の外を指差すと、2人は揃って窓を開けて外に身を乗り出す。
「「え、なになに!」」
2人はしばらくの間、忙しなく首を動かして外を見ていたが、やがて俺のほうに向き直って「なんもないじゃん」とつぶやいた。
「あるだろ! ほらっ、みんな熱心に部活してるんだから、俺たちだって真面目にやんなきゃだめだろってこと! せっかく部活ん中で交代しながら部屋使ってんのに、俺たちが使える日ぐらいは有効活用しなきゃもったいないだろ!」
「一星は熱いなぁ」
「その熱意には感心するよいつも! 一星なら吹奏楽部でもやっていけるよ」
「むしろなんで君たちってそんなのんきなの……」