ストラムメッセンジャー
□スラップスティックコメディ
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文化系の部活動なら、うちの高校の中では二番目に人数が多いのが俺の所属するこの軽音部だ。
文化、スポーツ問わず、最も大所帯なのは吹奏楽部で、人数もさることながら熱の入った練習ぶりで、毎年、全国大会の常連になっている。
きれいで新しい第一音楽室はそんな吹奏楽部に使用されている為、軽音部は部室棟のすみにある第二音楽室、通称、二音を部室にしていた。
二音は広い。バンド二組で使っても、音量にさえ気をつければ練習できないわけでもない。
防音もしっかりしている。
でも思う。校舎から遠く離れた部室棟の、さらに端にあるこの二音はどう考えても隔離部屋だ!
隔離部屋らしく二音の雰囲気はどこかだらけている。
部員も、なんとなーく楽器を弾いたり弾かなかったり、そもそも部活に顔を出したり出さなかったりで、もう軽音部自体がだらけてる。とんでもない話だ。
軽音部に真面目な活動を求める俺が間違ってんのかな、ああ……
「やだなぁもう、一星ってばそんな暗くなるんじゃないよ! 真面目にやるよ、やるやる! まかせといて!」
「そうだよ一星、お前がくるのを待ってたんだから。ドラムがいなきゃどうしようもないだろー」
肩を落とす俺の頭をポンポン叩きながら2人がいう。
「…頭さわるんじゃねーっ!」
「だってー、一星、俺たちよりマイナス10cmだから手を置くのに高さがちょうどよくてー」
「このさい素直にチビっていえよ、なんだよマイナス10cmって、そんな婉曲表現いらねーし!!」
「――ちょっとチビくん、うるさいんですけどぉ」
突如割り込んできた声に振り向くと、どう考えても明らかに俺よりチビな女一名。
「…チビの愛川(アイカワ)さんにチビっていわれたくないんですけどぉ」
俺と同学年のくせに「小学生です」といっても通用しそうな超童顔、まるい顔にまるくて大きな目がきょろきょろ、小さな鼻にぷっくり膨らんだピンクの唇。
「素直にいえよって一星くんがいうからいったんですけどぉ」
「愛川さんにいったわけじゃないんですけどぉ」
「あらぁ、ごめんなさいねチビくん!」
「………」
愛川紗智(アイカワ サチ)は軽く鼻で笑ってからユキトに目を向けた。
「あのね、ユキトくん、悪いんだけどこの間借りた楽譜、もうちょっとだけ貸しててもらえないかな」
「ああ、あれね、いいよ、どうせ使わないし、好きなだけ使って!」
「ありがと!」
愛川はにっこり笑ってから、パタパタと軽い足音を立てて行ってしまう。