リトルバスターズ
□第一話【再会】
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ガタンゴトン、と揺れる電車内。
またあの夢を見た。
幼い頃、居眠り運転をしていた運転手のトラックが自分達家族が乗る車へ衝突をして事故を起こしてしまった夢を。
その事故で、大切なモノを全て失ってしまった夢を見てしまった。
嵩「くそっ・・・・・胸糞悪いや」
ここ数日の間、思い出したくもない家族の死を鮮明に夢の中で映し出されてしまう。
本当に最悪な気分だった。
紅蓮は、気分転換にと思い窓を開いた。
ぶわっと、開いた窓から流れ込んでくる風は気持ち良かった。
んー、と。寝起きの体を伸ばしながら、紅蓮は窓から見える景色を見て呟いた。
嵩「でも良かったー。またこの街に帰ってこられて・・・・・」
約七年振りの景色は走る電車内から見ても本当に懐かしいものだった。
嵩「確かに懐かしい、けど・・・・・。ハァ・・・・・・」
紅蓮は盛大にため息をつく。
正直言って、内心には相当不安が募っている。
以前住んでいた県の中学から昔住んでいたこの街の高校に受験をして合格したのは嬉しかった。
嬉しかったが、
嵩「シスター、本当に大丈夫かなぁ」
"とある事情"で中学校卒業まで孤児院にいた紅蓮は、ふと笑顔で見送ってくれた母のような存在のシスターを思い出した。
そのシスターは七〇歳前後の女性で年寄りで、身寄りのない子供達を引き取って育てていた。と言っても、引き取っていた子供達はそれほど多くはない。当然だろうとは思うけれどいて四、五人だった。しかし、中学校卒業までにそんな孤児院にいたが、養子として引き取られていった孤児院仲間でも最後まで残っていたのは紅蓮だけだった。
それゆえにシスターは笑顔で見送ってくれたが無性に心配だ。
何せ七〇歳という高年齢にも関わらず、自分でやれる事は自分でやると言い張り、心配する紅蓮に年寄り扱いするなと怒鳴ったり、めちゃくちゃなシスターなのである。
自分がいなくてはおそらく、年寄りにはきついであろう家事を疎かにしてしまいそうなので心配なのである。そのおかげである程度の家事全般はできるようになったのは有難いが。
ハァ、と。紅蓮はもう一度ため息を吐いた。
嵩「いつまでも心配してても仕方ないか。来ちゃったものは来ちゃったんだし・・・・・」
そう。来てしまった以上後戻りは出来ない。というかしてしまったらシスターに殴られそうだ。いや、するつもりはないけれど。などと思っていると走っていた電車の速度が緩やかになってきていた。
嵩「そろそろ到着っぽいかなー。っと。忘れちゃダメな荷物荷物♪」
頭上の網に乗せていたバッグを担ぎ、紅蓮は開かれた電車の扉をくぐって外に出る。
嵩「うっわー・・・・・前いたところよりやっぱり都会は広いなぁ」
田舎者(と言ってもそこまで田舎ではない)全開モードでキョロキョロと周囲を見回しながら紅蓮は駅のホームから改札口へ歩き続け、改札口に切符を通してようやく外に出ようとした所で気が付いた。
様々な人々が行き交う駅前で、黒を基準としたブレザー服を着て誰かを探しているのか先ほどの紅蓮と同じようにキョロキョロと周囲を見回している四人の少年達(一人はなぜか剣道着)とその中心に立つ少女がいた事に。
始め、見た時はただ通り過ぎようとした仲の良い学生達かと思った。だが違う。
"彼ら"の事を、僕は知っている。知っていた。
そう言えば、出発前にシスターは『あんたが幼い頃にいたあの街に、今も住んでいるあんたの幼い頃の友達の一人から連絡をもらってねぇ』と苦笑しながら言っていた。
その言葉は聖職者なのにいつもの冗談だとは思っていた。
だって、あれから七年の歳月が経っている上に"彼ら"とは誰一人として連絡を取り合っていなかったのだから。
覚えているはずがない。そう、"あんな"別れ方をして覚えているはずがないのだ。
紅蓮は、"彼ら"から逃げるようにして背を見せて歩き出そうとする。刹那。
「見つけたぜ嵩ーッ!!」
背後で野太い男の声が聞こえたのと同時、ガシリと紅蓮の体はその男にホールドされてしまった。
「うぉーっ!五年振りだな!」
嵩「・・・・・・・、」
背後からホールドされたまま、紅蓮は思う。
やばい。この男は本当にやばい。あらゆる意味でやばすぎる。特に頭が、と。
そんな事を思っていると、後ろからさらに三人の少年の声が聞こえてきた。
「真人、五年じゃなくて七年振りだからね」
「そうだったか?」
「そうだぞ真人。理樹の言う通り七年振りだ」
「恭介。真人には何を言っても無駄だと思うが?」
嵩「というか・・・・・・いい加減に離してよ真人。暑苦しいよ」
真人「おう、って暑苦しい?フッ、この俺の筋肉―――」
理樹「元気そうで何よりだったよ」
嵩「ふふ、ありがと。みんなも元気そうでというか、真人だけ無駄に元気過ぎだね」
何やら筋肉筋肉と連呼している筋肉男を放置して、紅蓮は恭介の背後で毛を逆立てた猫のように絶賛警戒中の少女に視線を移す。
嵩「ところで鈴?恭介の後ろなんかに隠れてなにしてるの?」
鈴「か、隠れてなんかないっ!」
どげしっ!と頬を赤らめた鈴の見事なハイキックが紅蓮の太股に直撃した。
嵩「痛っ!い、いきなりなんでハイキック!?」
鈴「お前が変な事を言うからだ!」
嵩「へ、変って・・・・・。理樹、僕なんか変な事言った?」
理樹「言ってはいないね」
あははは・・・・と苦笑いを浮かべる理樹は真人よりも格段に信用できる友人だったので信じる事はできるがなぜだろう。
嵩「鈴・・・・・七年も見ない間にすっかり女の子らしくな―――」
言い掛けた紅蓮の言葉を遮ったのは、ドゴッ!と再び襲いかかった鈴のハイキックだった。あろう事か先ほどと同じ箇所。
嵩「〜〜〜ッ!!」
理樹「今のは嵩が悪いよ・・・・」
恭介「まぁこれぐらいで感動の再会は終わりだ。ようやくまた七年前と"同じ七人。いや―――六人が揃ったんだからな"」
恭介のその言葉に、紅蓮達は思わず黙って恭介を見る。
十年前と同じ七人、いや正確には六人と言い直した恭介を見た。
本来ならば、この場にもう一人いるはずだった少女はこの世にはもはや存在しないから。
恭介「嵩。改めて言おう―――」
そんな沈黙を破った恭介は一度息を吐いて、
恭介「よく帰って来てくれた。おかえり」
理樹「おかえり、嵩」
健吾「おかえり。またよろしく頼む。」
真人「ずっと待ってたぜ。おかえり」
口々に『おかえり』と言ってくれた彼らの顔を見るのは照れくさかったが、本当に嬉しかった。
理樹「ほら鈴。鈴も言ってあげないと」
鈴「う、・・・・・」
と理樹に促され、鈴は赤く染まった頬で紅蓮より頭一個分小さいので少し上目遣いになりながらも、
鈴「よ、よく帰ってきた。お、おかえり!」
嵩「ふふふ・・・・・・。ただいま、みんな!」
離れ離れになってしまったかつての『正義の味方・リトルバスターズ』はこうして再会を果たし、僕らの長い物語は始まりを告げた。
・リトルバスターズ