wanna be T
□wanna be T 05
1ページ/1ページ
あれから
暴るより早くローに抱えあげられたカンナ。そのまま、空いていたという船室の一つに投げ込まれた。
自由に使っていいと言うこの部屋。カギは付いていない。確かに必要がない。だってこの部屋から出たって、どこにも行けるはずないのだから。
それでも部屋を出る直前のローに食ってかかり、今すぐ島に船を戻して降ろせと胸倉をつかんだ。しかし意地の悪そうに笑うだけで、扉は閉められてしまった。外へ出れば隣の部屋へ入るロー。まさかと思いクルーに聞けば、この部屋はローの隣の部屋とのことだ。
カンナは怒りにまかせ扉を乱暴に閉じ、与えられた部屋の床にしゃがみ込んでしまった。
「どうしよう…海賊なんて…」
海賊
その単語に身震いが起こる。それと同時に思い出される記憶。
人々の叫び声と火薬のにおい。手を伸ばしても救えなかった人々。
大切な場所を奪った…憎い海賊…
呼吸が乱れる。カンナは苦しそうに胸をかきむしった。
右手を光らせれば少しだけ落ち着く呼吸。いつの間にか、カンナの瞳からは涙が一筋こぼれていた。それを乱暴にぬぐい去り、壁にある大きな窓へ歩み寄った。
空に輝く月はただ冷たく、カンナを見下ろしているだけ…