短いの
□守れない
1ページ/1ページ
「まったく、まだかあいつは」
堂々とそびえ立つ校門の前。
俺は買い物の付き添いを頼まれて、待ち合わせ場所で##が来るのを待っていた…はずだ。何分待ったって来やしない。
誘ってきたのはあいつのはずなのにこうまで待たされていると、もともと誘われたのが自分の夢だったのか、それともからかわれていたんじゃないかと疑ってしまう。まあ、あいつが時間を守れないのはいつだって同じことなのだが。
忍たまとくのたまの実習の時だってそうだ。
何度かペアになったことがあるが、いつまでたっても集合場所に来ない。
やっと来たかと思えば悪びれもせずに「ごめん」だ。
それを嫌というほど分かっていて、なお時間通りに待ち合わせ場所に来る自分は馬鹿なんだろうか。
「はあ……」
何度目か分からない溜め息を吐いた時、後ろから元気な声が聞こえてきた。
「留三郎ー!
また先に来てたんだ!」
にぱっと効果音がつくほど明るい笑顔を見せて、##は小走りにこちらへ向かってきた。
「またって…お前なあ…
俺は毎回時間通りに来てるんだ。
たまにはちゃんと守ってくるつもりないのか?」
溜め息混じりに##の額を軽く押すと、彼女はさらににこにこと笑った。
本当に彼女には悪気というものがないらしい。
「いやあ、寝過ごしちゃってさ。
時間通りに行こうって気持ちはあるよ?」
気持ちはね、と付け足して町の方向へ歩き出す彼女を見ていると、怒っているのが馬鹿らしくなる。
「…本当に反省してるか?」
「してない」
「聞くんじゃなかった」
呆れながら後ろをついていく。
一体どれだけの人に迷惑をかけているんだろうか、##は。
そう思いながら並んで歩くと、隣にいる少し背の小さな同級生は笑みをこぼしたままつぶやいた。
「どうしても、留三郎なら遅れてもいいかなって思っちゃうんだよねー」
聞き流そうと思っていた彼女の言葉に疑問が生まれて、俺は立ち止まった。
それに気付き##も足を止めてこちらを振り向く。
…今こいつは何て言った?
「俺となら、だと?」
「…?
うん、君となら」
何だって?
じゃあ他のやつらとの待ち合わせなら毎回時間を守ってるっていうのか?
訴えるようにそう言うと、##は何を言っているのかというようにとぼけた顔で軽く頷いた。
「なんでだよ!
他の約束を守れるんだったら俺の時もちゃんとしろよ!」
傍から見たら変な光景だろう。
一人だけぷんぷん怒って、それをじっと見つめる相方。
彼女は少しの間、ぼーっと俺を見つめると急にすたすたと近付いてきた。
口喧嘩でも始めるつもりか?
だとしたら理不尽だが…
「っ!?」
何をするかと思えば、##は思いっきり抱きついてきた。
いきなりのことに事態が飲み込めない。
どうしたらいいのか分からず、熱が一気に顔へと集中する。
「留三郎だからだよ!」
もう怒るのにも疲れた。
俺は呆れて口元が緩むのを感じながら、##の背中に両手を回した。
ああ、こいつには本当に敵わない。
守れない
――――――――
※何分(なんぶ)
一分は現代の三分くらい。
時間を「守れない」。
最初は「守れない」と聞いて死ネタを想像したのですが、もうちょっと斜め上のものは作れないかと思案した結果こんな作品が出来上がりました。
シリアスが書けないのは内緒^^
「なんでもないの」雨息様に提出。
素敵な企画に参加させて頂き、ありがとうございました!
平木