短いの

□拍手
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授業はつまんない。
休み時間に友達(主に忍たま)と遊んだり一緒に食堂でご飯を食べたりする時間は好きだけど。
先生の話をよそに友人のくのたまに話しかけようかと思ったが、みんな真面目でこっちの声なんか聞こえないふり。
いい子たちなんだけどなあ。
いい子だからか。
授業中に居眠りするのもいいけど、先生に怒られるのが嫌だからしない。
で、眠いのを我慢するかっていうとそうでもない。




「いさっくーん」


保健室。
前触れもなしにがらがらと戸を開ける。
もちろん、不躾なのは分かってる。
ただ、それを笑顔で許してくれるからいさっくんはいさっくんなのだ。
そう、教室にいるのが面倒で面倒でしょうがない時、私はいつもここにくる。

「…もう、また来たの?
ほんとに懲りないなあ……授業、ちゃんと受けないで大丈夫?」

先生も彼も注意をするのを諦めるほど頻度が高いのはご愛嬌。
私の声と戸を開く音に気付いた彼は、薬草を混ぜあわせる手を止めて顔だけこちらに向けた。
いつものように苦笑いを浮かべている。

「んー?平気平気、これでも試験は結構頑張ってるんだからね。」

心配するいさっくんをよそに私が当然のように布団を敷き始めると、後ろから溜め息が聞こえた。

「それにしてもやっぱり出席日数とか…いろいろあるじゃないか。
試験の結果がよくたって、授業態度が悪いって言われたらどうするんだい?」

その言葉に一瞬、布団を敷く腕が止まった。
いつもなら私が平気平気と言えば苦笑いで「そう?」などと言って許してくれるのだが、今日は何だか様子が違う。
ここまで粘るのには何かあるのだろうか。

そこまで考えたけれど、特に気にせず私は笑って言い訳を続ける。

「大丈夫だって!
ちゃんと計算しながら休んでるんだからさ、きっとなんとかなるって」

布団を敷き終わると後ろを振り向いてへらへらと笑ってみせた。
彼の方もいつの間にか薬を作る手を止めて、こっちを向いて私を見上げていた。
でも、とさらに反論しようとするいさっくんの言葉に私が被せるように言った。

それが彼の気分を害するとも知らずに。

「考えてもみてよ!
もしさ、私が授業サボり過ぎて退学にでもなったら、私はもうここに来れなくなるでしょ?
そしたらいさっくんもしつこい私の顔を見ないで…」

すむようになるでしょ?

そう言おうとしたが、その言葉を口にした瞬間、彼の表情が強張った。

まずい。怒ってる。

直感で、そう感じた。
何がいさっくんを怒らせたんだろう。
私が今言った言葉の中にそれがあるのは分かるけど、何なのか分からない。

必死で弁解しようと後ずさりしながら口を動かすけど、原因が分からない以上言葉が出てこない。
何を言ったらいいか分からないまま口をぱくぱくと動かしているといさっくんがゆっくりと立ち上がり、先程の顔を酷く寂しそうな表情に変えて話し始めた。
自分で確かめるように。

「そんな悲しいこと、二度と言わないで。
私は一度だって君に会いたくないなんて言ったかい?

むしろいつも君と話ができて嬉しい。
嬉しいけど、もし君が、その…それこそ退学にでもなったらと思うと、すごく寂しい。
だってもう二度と会えなくなるってことだろう?
そんなこと、あってほしくないよ。
…だから、たまに遊びにくるのは構わないから。」

ちょっと頑張ってみない?
柔らかい笑顔を浮かべてそう言うと、ゆっくりとこちらに近付いて私の頭を優しく撫でた。
怒っていた時の雰囲気はもうない。
その時は怯えていたから感じなかったけれど、今になって申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
何気ない言葉で彼を傷つけてしまったなんて。

「…ごめん」

なんて言ったらいいか分からなくて、その一言を口にするだけで精いっぱいだった。
それでもいさっくんは笑って慰めてくれた。

「分かってくれたらいいんだ。」

今日は特別ね、と微笑んで言うと私を布団に無理矢理入れて、その横に足を崩して座った。

「ありがと、いさっくん」

その笑顔に私も顔が綻んで、いつの間にか私は眠りについていた。


明日からは、少し頑張って授業に出てみようかな。







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