短いの

□氷よりも夏の君
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「あっづううう」

「三郎うるさーい」

真夏。
ちょうどよく日陰が落ちる私の視界には、じりじりと日差しに焼かれながらサッカーボールを蹴る一年生たちがいた。
何をするともなしにそれを眺めながら縁側に座っている私の背中に、堕落しきった声がゆるゆると刺さってくる。普段の飄々とした感じはどこへいったんだろうか。蝉が鳴くこの季節になるといつもそう思う。

「この部屋日陰になってるんだからいいじゃない」

「それにしたって暑すぎる」

私の化粧が汗で剥がれたらどうするんだ、とかそれらしいことを呟いている。本当は暑いだけのくせに、どうやら何か文句をつけたいらしい。
その唸り声の煩さに痺れをきらして振り返ると、三郎は大の字になって天井を見上げていた。

「授業、もうすぐ始まるんだろう?
面倒だなあ」

「暑いから?」

「まあ……半分正解」

残りの半分が気になると言えば気になるが、何となく予想はついているし面倒だから特に答えないでいた。
休み時間の終わりを告げる鐘が鳴るのと同時に、さっきまでボールを追い掛けていた水色は一目散に教室へ消えていく。
後ろから、つれないなあ、という声が聞こえたかと思えば、三郎は私のすぐ傍まで近づいていた。

「一番は、##から離れたくないからさ」

耳元で囁かれる。
こんなやつだろうとは思っていたし、今更初々しく顔を赤らめるほどではない。むしろ、よくこんなこっ恥ずかしい台詞を堂々と言えるものだと感心してしまう。

「そりゃどうも。
暑いのに、私とは離れたくないの?」

「もちろんさ!氷なんかよりずっとな」

「随分な口説き文句」

後ろから私の首へ腕を回した三郎が、誰もいなくなった校庭へ顔を向ける。
じっとりとした体温が伝わってくるのを感じながら、私はその頬に口付けた。

「午後の授業、さぼろっか」








氷よりも夏の君







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