短いの

□体育が得意科目
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結構広い校庭。
青い空に白い雲。
自分の身体を見直せば、少し大き目に注文したジャージに薄汚れたスニーカーが少し内股に並んでいた。
運動日和と言われたって、こんな格好をしたって、やりたくないものはやりたくないのだ。

「体育なんか、大っきらい」

叱られた子供みたいに憎らしく呟いた声は、小さく浮かんで目の前で消えたように感じた。









走ればビリ、泳いでもビリ、頼みの綱は筆記試験。
今日にいたっては、運動が好きな生徒たちにも嫌われるあの競技だ。
学校生活の大体を一緒に過ごす面子と固まって話していると、そこかしこから嫌そうな声が聞こえてくる。
それらに今日の授業は間もなく始まるのだと改めて気付かされ、私は肩を上げて息を吸い込むと思い切り溜め息を吐いた。

「はあああああああ嫌だああああ」

「まあまあそんな顔しないで##ちゃん」

肩に何かを感じて横を見てみれば、そこには運動も体育も結構できちゃういい子な不破雷蔵くんがいた。

「だって……3キロなんか走れないって!
雷蔵は運動できるからいいけどさー」

「あはは、確かに好きだけどね。
でもやっぱり長距離は苦手かも」

もっと身体を動かす方がいいな、と彼は相変わらずの笑顔で言った。
このスマイルで結構上位に入るんだから、ちゃっかり神経は図太いんだと思う。
そんなことを言いながら内心では楽しみらしい、雷蔵はさっそく準備運動を始めていた。

「もー……なんでそんなに運動できるの?」

腰を伸ばすように身体を曲げながら青空を見上げる雷蔵は、本当に心当たりがないように見えた。
冷たい風が頬を掠めると、目の前の秀才くんはうーんと唸りながら言葉を発した。

「そうだねえ…
やっぱり、男だからかな」

大きな目をこちらに向けてにっこりと言うその顔は、少しいたずらっぽい。
男だから、という変な答えに、私は笑みがこぼれてしまった。
さっきまで長距離という単語に嫌気が差していた気持ちが少し和らぐ。

「あはは、何それ」

冗談っぽく流したけれど、本当にどういう意味を持って言ったんだろうか。
理由を求めるようにその瞳をじっと見つめてみれば、雷蔵はふふ、と笑って視線をそらしてしまった。
少し気になっていると、ウォーミングアップが終わったらしい彼は一つ溜め息を吐いてさっぱりした顔を見せた。

「男なら、好きな子にはかっこいいところ見せないとね」

軽く後ずさりをするようにしてそれだけ言うと、雷蔵はそのまま小走りに自分の友達のところへ行ってしまった。
栗色の髪がふわふわと揺れるのを見送って、私はどこを見るともなくぼんやりとした。

頭の中で言葉がぐるぐると回っている。

好きな子、ねえ……


「……そうだとしたら、女だって頑張るわよ」


グラウンドに白い線が限りなく引かれている。
私はスタートラインに向かって一歩進んだ。








体育が得意科目








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雷蔵はふわふわ且つむきむきだと良いなあ

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