散らせ散らせ、悪の華

□散らせ散らせ、悪の華
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「杭弥!!杭弥!!」


沙織に名前を呼ばれてもなんだか遠くに聞こえる。


そう、まるで水中にいるみたいだ。


うっすら開いている双眸から見える沙織は泣いていた。


誰だよ、沙織を泣かした奴は。


...私か。


普通なら吐き気を催す鼻を突く血液の匂いが、私はひどく好きだ。


生きてるって感じだし。


「杭弥っ!...ヒック...、」


泣かないでほしい。


また夢の子供を思い出すじゃないか。


泣かれるのは、困る。


どう対応したらいいか迷ってしまう。


『泣く、なよ...、沙織。』


運良く(?)私は沙織とのデート後に刺されたんだ。


デート前だったらマジ泣くよ、私。


あーあ、ケーキ屋デートはおあずけかー...。


お腹に傷を負ったんだから、やっぱりここは松田勇作の名言を言うべきなのだろうか?


言えばカオスな事になる。


頭では冷静に考えられても口は動かない。


松田勇作の名言を言うほど余裕はない。


「死んじゃ、やだよぉっ!!」


死に際に親友がいるなら最高じゃないか。


私は満足してる。


泣き叫ぶ沙織に見取られながら杭弥は死んだ。


煙のように消えたってゆく命。


もしも生まれ変われるならば、その時は男になりたい。








理不尽な死



(ああ、まだ死にたくないよ。)


(それでも君は死ぬ。)








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