散らせ散らせ、悪の華

□散らせ散らせ、悪の華
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目を再び開ければ醜悪な雰囲気が漂っていた。


強大で禍々しい存在を感じた。


重くて、冷たくて鋭い。


それに痛い。


薄暗くて、足下には水が広がっていた。


それよりも重要なのは目前の存在だった。


檻の向こう側から緋色の双眸がこちらを睨んでいる。


朱色の艶やかな毛を持つ獣が杭弥を食い荒らそうと牙を見せた。


しかし獣の牙は杭弥には届かない。


硬い檻が邪魔して届かないのだ。


檻の門には白い紙が貼ってある。


封印の御札だ。


杭弥が目前の獣に臆する事はなかった。


寧ろ全く逆の感情を抱いていた。


安心感、それから懐かしさ。


...ああ、お母さんから感じたものと一緒なんだ。


そしてこれがいるから化け狐と呼ばれるんだ。


自分が化け狐と呼ばれる理由をやっと理解した。


そんな事を思いながら杭弥は唸り続ける獣に言った。


『...お前が噂の化け狐、九尾ね。』


「儂に何の用だ小娘...。」


地に響く声が水面に波紋を呼ぶ。


否定しないと言うことは肯定だと受けとっておこう。


まぁ、否定しないからといって肯定とは限らないのだが。


しかしどこかで聞いた事のある声だ。


どこだったか...、


しかしまぁ何か用があるかと問われれば別にないのだが。


何故か知らないが強制的にここに送還された。


何故かに理由を当てはめるなら多分怪我して気を失ったからかもしれない。




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