思い出した、人類は皆平等だった

□思い出した、人類は皆平等だった
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5時、6時と時間が過ぎて完全に日が沈んでしまった。

夏が近かろうとも、6時を過ぎたこの季節はだいぶ暗くなってしまう。

松風君と剣城君は過ぎ去る時間も気にせずに練習をしていた。

私はそれをストーカーの様に見ていた。

自覚症状がある辺り、マシだと思う。

二人が休憩に入る頃を見計らって自動販売機で飲み物を買った。

「はい、二人とも」

私は二人のちょうど間から片手に自分の飲み物、もう片方の手でペットボトル2つを突き出す。

「なんでいるんだよ」

期待していた言葉はありがとう等感謝の気持ちのはずだったので、だいぶがっかりだ。

剣城君どうして君はそんなに不機嫌なんだ。

「え、もしかして友達や仲間の関係を越えて恋人に発展しそうないい所邪魔しちゃった?ごめんね、空気読めない奴で」

「誰が恋人だ」

「え、松風君と剣城君?」

「なんで疑問形なんだよ」

そんな事より頼むから早く受け取ってくれ、指が痛い、落としそうだ…。

そう思っていたら松風君が代わりにペットボトルを受け取り、片方を剣城君に渡してくれた。

「ありがとう、松風君」

「俺は無視か」

そんな事を言いながらも剣城君は松風君からペットボトルを素直に受け取っている。

これは差別ですか。

なんで松風君だと素直に受け取るんだ。

つかの間の休憩の、ちょっとした馬鹿馬鹿しい慣れ合い。

こういうふざけた態度で絡むのは凄く楽しい。

「なぁ、どうして俺だったんだ?この技をやる相手」

やっぱり恋人だか…冗談だよ。

サワサワと、後ろから吹く風で髪が乱れる。

サワサワで南沢先輩思い出している私は大変不謹慎だと思う。

「お前が、俺にサッカーへの道を示してくれた」

決して嫌な風ではない。

なんだか爽やかで、気分は悪くない。

ちょうどその時、携帯が着信を告げる。

私の携帯の音ではない。

私の携帯の着信音確か大好きだーっ!ってひたすら30秒叫ばれるはずだから。

まぁ、その携帯も壊れてしまい、データはおじゃんだ。

携帯絶滅術後ストレス障害で新しい携帯はほぼ初期設定だ。

オタクにあるまじき行為だ。

初期設定な私の携帯の音とは少し違う。

どうやら剣城君の携帯の様だ。

なんんとも可愛げのない音(きっとこれは初期設定のままなんだ)だが、剣城君らしい。

「もしもし」

思わず笑いそうになる。

いや、私が前電話かけた時ももしもしって言ったけども…。

それでも剣城君の口から人間らしい言葉が出るとなんか違和感、というか、普通の人がよく使う言葉を剣城君が言うのに違和感を感じる。

「え?今から病院に!?」

病院って事はゆっちーに何か…っ!?

三人で慌てて病院に向かう。

ゆっちーは運動ルームにいた。

「兄さんっ!」

「ゆっちー!」

「京介、泉ちゃん」

ゆっちーの注意がこちらに向いた途端、ゆっちーがバランスを崩す。

それを理学療法士らしき彼が支える。

「兄さん!」

慌てて剣城君がゆっちーに駆け寄る。

私も遅れて近くへ行く。

ゆっちーは使いなれた車椅子に座ると短く息を吐いた。

そしてこちらを見上げた。

「何かあったのか?急に呼ばれたから…」

「京介、俺手術を受けられる事になったんだ」

…私の聞き間違いだろうか…。

凄くいい事を聞いた気がする。

夢じゃないだろうか…。

「誰かは分らないが支援金を集めてくれた人がいてね。優一君の手術に使って欲しいそうだ」

理学療法士の彼が言う。

その支援金を集めてくれたという人は多分、もしかしなくてもきっとイシドさんだ。

あの人しかいない。

後で電話しよう。

「じゃあ、兄さんの足は治るんですね!?」

「手術の後リハビリを続ければ歩けるようになるだろう」

その言葉を何度聞きたいと願っただろうか…。

「よかった…」

瞳を揺らし、涙を堪える様に肩に力を入れ、目を瞑った剣城君がゆっくりと床に膝を付いた。

「京介…」

「ホントに、よかった…」

剣城君の声は弱弱しくて、震えていた。

「俺の為に辛い思いをさせてすまなかった」

「そんなこと、」

剣城君は言葉の続きの代わりに首を横に振った。

ゆっちーが剣城君の方に手を置いて言う。

「時間がかかるかもしれないが俺はもう一度フィールドに立ってみせる」

ゆっくりと顔を上げれば、同じ色の瞳と視線が合う。

「決勝戦は誰の為でもなく、自分自身の為にプレイして来い。お前の大好きなサッカーをな…」

ゆっちーは目尻を下げて微笑んだ。

「兄さん…ああ」

剣城君が穏やかな顔をするのはゆっちーの前だけだ。

やっぱり家族と言うのは誰にとっても特別な存在。

私は踵を返し、運動ルームを出た。

「織武先輩どこへ行くんですか?」

出入り口の所で様子を見ていた松風君に呼ばれ、足を止めた。

「兄弟の感動を私が邪魔しちゃダメでしょ?」

私は二人を一瞥し、そのまま病院を出ていった。

私はポケットから携帯を出し、電話帳の一番最初に登録されている彼に電話をかけた。

言わずとも相手はイシドさん。

「もしもし?」

『何か用か』

「冷たいですね、イシドさん。クールなのは構わないんですが、クール過ぎやしませんか?クール通り越して冷たいんですが」

『用がないなら切る』

「ああああ待って下さい!用がない訳じゃないですよ!」

私は切ろうとするのを必死で止めた。

これで切られたら何度だって電話してやる。

痛電してやる。

「…ありがとうございます。ゆっちーの支援金、集めてくれたのイシドさんですよね」

『…………』

「感謝してます」

私はそれだけ言うと電話を切った。

どうせクールな彼の事だから何も言うまい。







思わぬ朗報


(剣城君は文字通り、体で払ったという事か…。)

(なんだかえっちぃ響きですね。)




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