思い出した、人類は皆平等だった

□思い出した、人類は皆平等だった
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私は靴とニーハイを脱ぎ、川に足を浸けた。

水温は冷たいと言うには物足りないが季節柄仕方ない。

夏と冬の温度差が無くなればいいななんて考えは飽きる程にある。

そんな事は多分ないだろうし、暑くない夏なんて夏じゃない。

寒くない冬なんて冬じゃない。

その時私はちょっとした出来心が出来てしまった。

一度でいいから服のまま川に飛び込んでみたいと。

頭を冷やすって意味では効果的かもしれない。

私は水から足を出し、ギリギリの所に立った。

小学校の頃服のままプールに飛び込んで、普段川に落ちた時等の訓練はしっかり受けたから溺れるかどうかの点については問題ない、多分。

プールと違って川では流れがある。

どうなるのだろうか。

カエルになりたいと思った事がある。

水中でも息苦しく無さそうだし、冬は冬眠。

人間の私からしたらかなり羨ましい。

私のヒキニート根性には目を瞑ってほしい。

川に飛び込んでもタオルくらいならお父さんのお店にあるだろうし、着替えと言っちゃなんだがメイド服もある。

あ、下着の事を考慮しいなかった…。

「おい」

急に後ろから声を掛けられ肩が震える。

あまりの驚きに危うく川に落ちそうになった。

腕を引かれ、落ちる事は辛うじてなかった。

今落ちたら脛辺りをぶつけるだとかして怪我したかもしれなかった。

もしかしたら腕を引いた彼も一緒に川へ落ちたかもしれない。

よかった、落ちなくて。

私はほっと息を吐いて、腕を引いた彼を見る。

「どうしたの?剣城君?」

「あんた今何しようとしていた?」

「そんなに私が気になる?」

「ふざけてんのか?あんた今川に飛び込もうとしてただろ…死ぬ気か?そんなに辛いのか?」

眉間に寄せられた皺がいつもの3割増しな所から冗談じゃないと感じた。

寧ろ剣城君は妙に真面目だから冗談なんてあんまり言わなそうだ。

私みたいな冗談が言えるようになったら何処の悪霊憑依させてきたの?なんて笑って言ってやる。

こうやって私の生死に関わってくると言う事は私はバクテリアから飼ってるペットくらいにまで昇格したらしい。

これは驚きの成長ぶりだ。

成長どころじゃない、出世や進化とも言える。

そういえば鰤も出世魚だ。

私は鰤か。

「真面目に勘違いしている所悪いけど私は死ぬつもりはないよ」

「は?」

なんともマヌケな声が返ってきた。

面白いわ。

「今は剣城君がいるから学校楽しいと思ってるし、見投げなんてしないよ。ただちょっと川に飛び込みたい気分になっただけ。私の事、気にかけてくれてるんだね、ありがとう」

嬉しかった。

私はいてもいなくてもいい存在として今まで…中学生活を続けてきた。

こんな事考えてる辺り中二臭いとか思う。

他人の言う中二が今の私の思考じゃない。

自覚症状がないのが危険だと言うけれども確かに私の思考は中二じゃないんだ。

なんと言うか…うん。

初めて友達が出来た幼稚園児?

うん、多分そんな感じだ。

一人でいる事が多くて寂しかっただけ。

一人でいる事が好きと言うわけじゃない。

人に話しかけるのが苦手なだけだ。

「べ、別にそんなんじゃねぇよっ…!」

口では否定しているものの、彼の嘘はわかりやすい。

ツンデレってホントかわいい。

剣城君には顔を背けられてしまったが(自惚れに聞こえるようだが)私を嫌っての行為じゃない事は知っている。

ただ彼は照れているだけに過ぎない。

彼自身柄じゃないだとか考えているかもしれない。

所詮全ては私の勝手な妄想だが。

「そっか」

だから分かりきった言葉など必要ない。

その所為でなんだか素っ気ない会話になっているかもしれないが、言葉は十分伝わってるからよしとしよう。

言葉は多くはいらないし、言って違ったら恥ずかしい。

彼が私が勝手にこうやって物事を決め付けて自己完結するのが嫌いらしいがこればかりはどうにもならない私の悪い癖だ。





多くはいらない



(言葉も、優しさも…。)

(あんまり優しくしないで、期待しちゃうじゃない…。)




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