第二部:地底の隠れ里

□惨劇の起きた刻
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気が付くとハイルは雪の上でぼんやりと立ち尽くしていた。

時間はちょうどお昼頃だろうか。雲一つない晴天だ。

(何でいきなりこんなところに…?)

「あー、ハイルだぁー!」

声のした方を見ると、リュカが此方の方に走ってきていた。

「お前もここに来てたのか…」

「何かよく分かんないんだよね〜。
気付いたらここにいたんだけど…
これって夢、なの?」

「俺も何がなんだか…。
もしかしたら同じ夢でも見てんのかもしれないな…」

2人はそう言って溜息をつく。

「あたし達が同じ夢見てるとしたら…他にも誰かいるかもしれないね」

「んでこういうタイミングで誰かしら出てくるんだよな」

ハイルがそう言って周りを見渡すと、

「あ、あれ青いのじゃね?」

「お、リュカもいるな!」

見事なタイミングでシュウと炬燵が此方を向いて手を振っていた。

「ほ、本当にいるとは思わなかったよぅ…」

「は?何が?」

半分呆れ顔のリュカを見て炬燵が不思議そうな顔をしている。

「いやこっちの話だ。気にすんな。

…で、誰かこの状況を説明してくれないか」

とハイルが半ば強引に話題を切り替える。

だが誰かがその問に答える前に、近くの民家の扉が勢い良く開いた。

開いた扉から出て来たのは6、7歳くらいの白髪の少年。

少年は「行ってきまーす!」と言って走っていく。

その直後に「待ちなさいったら!」という声と共に銀髪の女性が慌てて民家から出てくる。

「ほら、この前のお菓子のお礼にパン焼いたから持っていきなさい、って言ったのに…もう忘れてる」

「あ、ごめん母さん」

呼び止められた少年は母親からバスケットを受け取ると嬉しそうに笑った。

それはどこにでもある幸せな親子像だ。


「もう忘れ物無いわね?リュウ。」

「うん、大丈夫だよ母さん。
行ってきます!」

母親に向かって手を振り、再び駆けていく少年。

それを一行は茫然とした表情で見送ると、ハイルが恐々と口を開く。

「さっき…リュウ、って言ったよな…
しかもあの髪の色…」

「いや…だけど子供だぜ?
別人じゃないのか?」

シュウが聞くと、周りを見渡していたリュカが呟く。

「そういえばここ…
リュウさんの来てた場所じゃない?
家とか道の位置も一緒だし…」

「でも何であの兄ちゃんがここにいたのかは分からないだろ?」

シュウにそう言われて「まぁそうなんだけど…」と言葉に詰まるリュカ。

「ったく面倒だな…とりあえず直接中の人にでも聞いてみればいい話だろ?」

今まで黙っていた炬燵が突然そう言うと家に向かっていった。

「お、おい待て!」

「…うわっ!何だこりゃあ!」

ハイルが止めようとした矢先に炬燵が叫び声を上げて家から飛び退く。

「どうした!?」

「て、手がすり抜けた…!」

「…はぁ?」

ハイルが呆気に取られて聞き返すが炬燵は驚いた表情で自分の右手と家の扉を交互に見つめている。

「とりあえず落ち着け。
…何があったんだ?」

「いや今ノックしようと思ったんだけど…
手がすり抜けて家に触れないんだ!」

「何だそりゃ…」

話を聞いたハイルが半ば呆れながら家の壁に触れようとすると彼の手は何の違和感も無く煉瓦(レンガ)の中へ吸い込まれていった。

「げっ…!」

ハイルが先ほどの炬燵と同じように慌てて飛び退くと、2人のやり取りを見たリュカとシュウも壁に触って驚いている。

「何だこの気持ち悪いの…」

シュウがぼやくと、急にリュカが目を輝かせて一言、

「これって壁の奥はどうなってるんだろ?」

そう言うと何の躊躇も無く家に突っ込んでいき、そのまま彼女はレンガの奥へ吸い込まれていった。
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