第二部:地底の隠れ里
□再会
1ページ/3ページ
雪山の亡霊が本来に入ってこない街の中に侵入している上、転職官の館に向かっているという緊急事態に、三次転職官タイラスは武器を取る。
「このまま亡霊を入れる訳にはいかん、追い返すぞ!
お前は戻って入り口を見張れ。
そこの4人はついて来い!」
「「は、はい!」」
伝達に来た男と一行が返事をすると、館の入り口付近にいた炬燵が真っ先に扉を開けた。
「うわっ、吹雪いてる!」
扉の外は物凄い勢いで雪を伴った風が吹き荒れ、館の中にまで雪が舞い込む。
そんな荒れた気候の中、伝達に来た男は一直線にエルナス入口へ向かって行った。
「まじかよ!さっきまで月が見えてたのに!
と、とりあえず皆外に出て…」
とハイルが言いかけて外を見ると、そこには鎖と氷に捉われた少女…雪山の亡霊がいた。
「いつの間にここまで…」
亡霊を見て驚いたように呟いたタイラスは改めて武器を構える。
「ちょ、ちょっと待って…!」
そんな彼を見て、亡霊を見ていたシュウが慌てて声を上げる。
「何だ?」
「この子、何か…言ってる…」
亡霊の言葉は氷魔であるシュウにしか聞こえない為、一行は黙って彼の言葉を待った。
シュウが亡霊に向かい合うと、彼女は今にも消え入りそうな声で呟いた。
──ごめん…さっきから…暴走しちゃって、制御出来なくて……。
このままだと…あたしの自我が保たなくなるノも…時間の問題…。
せメて、最後に、お兄チゃんニ会えタラ……──
そう言ったきり亡霊は動かなくなる。
「…お、おい…!」
「この子、何て言ってるの?」
とりあえずシュウは仲間に亡霊の言っていることを簡単に話すと再度彼女に向かい合う。
「どうしたんだよ…いきなり黙って……っ!」
黙り込んだ亡霊は返事代わりに自分に向かい合う少年を吹雪で館の中へと吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
少年が吹き飛んだ先にあったソファの上から呆れたような声がかかる。
「あいてて…一応大丈夫かな」
「全くさっきから騒がしい…。
寝ようと思ったのに……」
「んー悪ぃな。ちょっとお客様がねー」
「雪山の亡霊だろ?」
「ありゃ、話聞いてた?」
「煩いから聞こえてたぞ。
何にしろ寒いから玄関閉めてやって欲しいんだが…、……!」
突然言葉を止め、目を見開いたリュウ。
「…嘘だろ……」
その視線の先には、今にも飛び掛かって来そうな雪山の亡霊の姿があった。
「えっと、お知り合い?」
シュウが茶化したように聞くが当の本人はそれどころでは無く、雪山の亡霊と彼女の結い上げられた髪に光る煌めく緋色の石を見つめていた。
鎖と氷に捉われているのは彼にとってとても見覚えのある顔をした少女だったのである。
だがこんなところにいるはずのない少女を見て動きを止めたリュウに対して、少女は一瞬悲しそうな表情をすると、吹雪を強めながらその場を離れようとする。
「ま、待て…っ!」
立ち去ろうとする少女を見て咄嗟に叫ぶと、リュウは周りの制止を振り切って飛び出す。
再び少女がリュウの方を向くと、痛い程に吹き荒れていた吹雪が急に止んだ。
少女が自分を見ていると感じたリュウは、1人の少女の名を叫ぶ。
遠い昔に失われたはずの、幼い少女の名を。
「ミュウ!お前なんだろう!?」
──少女がその名を呼ばれた時。
彼女を捉えていた鎖と氷が高い音を立てて砕け散った。
雪山の亡霊がいた場所には、1人の少女が座り込んでいた。
長い銀色の髪を持つ少女は、目の前でぼーっと自分を見つめている青年と目が合うと彼に抱きついた。
その紫掛かった蒼い瞳には涙を溜めながらも、満面の笑みを浮かべて。
「お兄ちゃぁん!!」
「…!」
「ようやく気付いてくれた!
あたし、ずっと…!」
傍から見れば感動的な再会の図なのだが、抱きつかれているリュウの方は心なしか顔色が悪い。
「…ミュウ、ちょっと退いてくれるか?」
「え…?
お兄ちゃん、あたしのこと嫌いになったの…?」
ミュウは不安そうな声と共に兄を抱き締めている腕に更に力を込める。
「いや、そうじゃないんだが…。
一旦手を退けてくれないか?
あ、痛い痛い痛い」
「ふぇ?」
この時ミュウは自分の腕で、先程兄が横っ腹に食らった傷の部分を締めあげていたのだが…彼女がそれに気付くのは、もう少し先のお話。