第三部:縞瑪瑙と錬金術師
□消滅への引き金
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時は遡り2週間半程前。
一行がエルナスを離れ、リュウからダークの元に連絡が入った後のこと。
雲一つない紅い空が広がる、地底の隠れ里シュルフ。
質素な民家の窓辺から外を眺めて物思いに耽る黒髪の少女…スカイはふと顔を上げる。
相変わらず彼女はついさっき出現した“時空の扉”の気配を感じ取っていたのだが、新たにその奥から強い悪意が発せられるのに気付いた。
(これは…まさか……)
神経を研ぎ澄まして悪意の先にあるものを探り当てると、少女は呪文を詠唱する。
その直後、民家には誰もいなくなった。
「……で、何でウチが呼び出されなあかんねん」
「サラ、今まで散々説明したのを全く聞いてないね?」
「そら寝てたからしゃーないやろ」
サラと呼ばれた赤毛の少女が欠伸をしながら応えると、金髪の小柄な少年…ダークは溜め息をついた。
「人が説明してる時に寝ないでくれる?
…つまりね、“時空の扉”が開いたけど、今はリュウさんがいないから代わりに僕が行くことになったんだ。
だからいつもみたいに撃ちすぎないでね、って言ったの。
僕リュウさんと違って弾当たるからさ」
「面倒やなぁ…。
で、場所はどこなん?」
ようやくやる気を出したのか伸びをするサラ。
不意に彼女の側に魔方陣が浮かび、その上にスカイが現れた。
「うわっ!びっくりするやん!」
サラが驚いてすっとんきょうな声を上げたが、スカイはそれにも構わず、深刻そうな顔をして2人に伝えた。
「やっぱり…今回は私も行かせて貰います。
万が一のことがあってはいけないので…」
「久々に随分大きなお客様が来るみたいだね?」
ダークが薄く笑うと、スカイも頷いて微笑みを浮かべた。
「えぇ。
仮にも私はシュルフの長ですから…丁重にお引き取りいただかなければ、ね」
紅い空の下、草原の上にぽっかりと陽炎のように揺れる暗闇と共に大きな裂け目…“時空の扉”が浮かんでいた。
ダーク、サラ、スカイの3人がその場に辿り着くと同時に裂け目の奥から巨大な生物が姿を現した。
「まさか…こいつちゃうよな?」
嫌そうにサラが聞くが、スカイは今までと変わらず微笑むばかり。
「よりにもよって人手不足の時に来るなんてね…」
ダークが自嘲気味に笑って言う先にいたのは、三つ首の巨大竜…ホーンテイル。
本来冒険家が30人近く揃ってようやく倒せる程の強さを持つホーンテイルだが…それはメイプルワールドでの話であり、女神の守護などないシュルフでは、まさに混沌と評するに相応しい存在である。
そんな存在を目の前にしても3人は臆することなく、むしろ不敵な笑みを浮かべていた。
「前衛が1人なのは大分痛いけど…やれるところまでやってみようか」
「最初からぶっ潰すつもりで行かな死ぬでぇ?」
最初にダークが刀を模した大剣を構え、次にサラが翠(みどり)色の拳銃を両手に1丁ずつ構えた。
「あまり喋っている時間は無さそうですよ。
…来ます!」
最後にスカイが何も構えずに後ろに立って叫ぶと、 その言葉に反応するようにホーンテイルは大きく吠えた。