小話@

□プレリュード
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「部外者が、ここに何しに来たの?」

幼少の頃から聞き親しんだ声が、背後から聞こえきて、恐る恐る振り返ると、案の定、幼馴染の姿があった。


彼女からの突き刺さる冷たい視線。


憎まれている事は、分かっていた筈なのに、私の身が竦んでしまう。


「……マリちゃん」

「マリちゃん!急にどうしたの?大丈夫だよ!香澄ちゃんは、部外者じゃないから!来月から転校してくるんだよ」

私の声と折り重なるようにして、隣にいるさつきちゃんが、口を開く。
 

「それ本当なの?」


「結果は、まだ出てないですけど、受かったら…」

「馬鹿じゃないの?赤司君、ファンクラブがあるくらい凄くモテるのよ!!その人達から見たら、あんたの存在なんか、誰も歓迎なんてしてないわよ!!」


なるほど。先程さつきちゃんの言った『有名人』という言葉は、オブラートに包んだ言葉だったのかもしれない。

征十郎さんを想うたくさんの少女達の、敵意を感じて、胸がずきりと痛んだ。


「マリちゃんも?」


「当たり前でしょ!!私、今バスケ部のマネージャーやってるの。あんたなんかより、私の方が、赤司君の事分かってるんだから!!あんたは大人しくフェリシアの温室に居ればいいでしょ!!」



「……ごめんなさい」


「何に対して謝ってるわけ?逆に苛々するから、やめてよね!」


「………」

つくづく返す言葉が無くて、これでは、去年と同じで何も変わらないではないか。


否、変われる筈もない。


あの日のマリちゃんの言葉を借りるなら、私は今も、姉の言う通りに動く人形なのだから。


俯く私を見て、今度は冷静な声で、マリちゃんは言葉を紡ぐ。


「……体育館に戻ります。桃井さんも早く戻った方がいいと思います」


「う、うん。私も、もうちょっとしたら戻るよ」


さつきちゃんの言葉を受けて、以前はふわふわの天然パーマだった筈が、ストレートに変わった髪を揺らし、マリちゃんは踵を返した。


廊下には静けさが戻ったが、それに反し、私の心は重くなる。


「ごめんね!マリちゃん普段は、香澄ちゃんみたいに、丁寧な喋り方で、落ち着いた感じだし、あんな剣幕で怒る所、初めて見たから、何かびっくりしちゃった」


「…そう、ですか」



私の知るマリちゃんは、先程さつきちゃんに話した口調は、同級生の間柄では、聞いた事がない。

又、自分の感情に素直で、喜怒哀楽がはっきりした性格であり、今さつきちゃんの語った印象とは、異なった。



「あの聞いてもいいかな?…その…マリちゃんと、知り合いなの?あっ!言いにくかったら、答えなくていいから!!」

こんな場面を見せられたのだ。

さつきちゃんの質問は、もっともだと思った。


「私とマリちゃん…幼馴染なんです。昔は、仲が良かったんですけど、私が彼女を傷つけてしまって…本当はきちんと謝りたいんですけど、きっともう許してもらえないと思います」


ひょっとして、時間が解決してくれるのではないかと、密かに期待もしてみたけど、今日の再会でよく分かった。

マリちゃんは、名前すら呼ぶのが嫌なほど、私の事を厭っているのだ。


「そっか。幼馴染なんだ!私にもいるけど、喧嘩したままだと辛いよね!!また何かあったら、相談に乗るからね!遠慮しちゃ嫌だよ!!」



「嬉しいです。有難うございます。…所でさつきちゃん時間は大丈夫ですか?」

「そうだった!ごめん。私も戻らないと!あっ、香澄ちゃん電車?駅までの道大丈夫かな?」


「ここまでも、一人で来たので大丈夫です。気遣って頂いて有難うございます」


「良かった!じゃぁ、新学期、ちゃんと会えるの、楽しみにしてるよ!またね!!」

「はい。私もさつきちゃんと会えるのを、楽しみにしています」




§



その日の夜、19時。

自宅の電話にて、編入試験の合格の報せが届いた。



……もう、後には引けない。


(了)
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