その他
□お姫様と三人の騎士
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「神田、冷えませんか?」
背後から声をかけると、テントから少し離れた岩に腰かける彼がチラリと振り返る。
夜気に冷やされた白い頬が、焚き火の明かりに照らされて浮かび上がる様が綺麗。
「…リナリーはどうした」
「ぐっすり寝ちゃいました。疲れが溜まってたんでしょうね」
「だろうな」
僕と神田、そしてリナリーの三人で言い渡された任務。
僕や神田は教団本部から出発したが、リナリーはかなりきつかったと聞く前の任務から直行だった。
大丈夫よ、と言い張っていた彼女だったが、神田が最初の見張りを買って出た後すぐに寝入ってしまった。
連続の任務じゃ無理もないことだろう。
それを責めるほど、神田も僕も心の狭い人間じゃない。
「…にしても、コムイさんて度胸ありますよねぇ」
「はあ?」
僕の言葉に神田は心底呆れたように眉をひそめて口の端を曲げた。
「だって、思春期の男二人とリナリーを野宿させるんですよ?」
あの病的なまでに妹を溺愛する人がすることとは思えない、と僕が言うと、神田はいっそう呆れたように深いため息をついた。
「阿呆か。あいつのシスコンは病気だが、リナリーに手出すかどうかくらいわかってんだろ」
「えー?」
「少なくとも俺とは付き合いが長くて、それこそ兄妹みたいなもんだしな。それにてめぇは…」
そこまで言って神田ははっとしたように口をつぐんだ。
何か言いたくないことをついこぼしてしまった、という顔は僕の悪戯心をそそる。
「僕は、何?」
にっこり笑って問いかけると、神田の頬に焚き火の明かりとは違う赤みがさあっと差す。
「…っ、何でもねぇ!」
「そう?」
あんまり真っ赤になるのが可愛いから、ついつい僕も攻め立てる口を控えてしまう。
甘やかしすぎかなあ。
「コムイさんにしてみれば僕らはさしずめ、お姫様をお守り申し上げる騎士ってとこですかね」
「…まあ、そんなとこだろうな」
「でもほら、物語だとお姫様は騎士と身分違いの恋に落ちちゃったりするのに?」
「知るか」
「あー、でもそれも僕達については心配ないな」
「あ?」
僕が自己完結したのが気に食わなかったのか解せなかったのか、神田が怪訝そうに眉間に皺を作る。
歪められた表情すら綺麗で仕方なくて、僕は思わずその頬に触れ、微笑む。
「だって僕は、お姫様じゃなくて、同僚の美しい騎士を好きになっちゃったんですから」
「!」
神田の顔がまた赤くなるから、今度こそ僕の悪戯心は黙っていてくれない。
ほんと、可愛い人。
「…って、さっき言おうとしたんでしょ?」
「っ、馬鹿モヤシ、そんなわけあるか!別に俺は」
別に神田が何なのか、僕は知らない。
お姫様の静かな眠りを覚ましてしまいそうな喧しくて美しい騎士は、僕が唇でそっと黙らせたから。