アレ神・短編

□ダーリンは意地っ張り
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 僕には、家族がいる。


少し前までは、血の繋がらない、いわば気持ちの上でのみお互いを「家族」として思い合うたくさんの人たちのことを僕はそう呼んでいた。

でも、今は違う。


その「家族」の中の、一番愛している人と僕は結婚した。


綺麗な顔してるくせして口は悪いし殴るし蹴るし甘い言葉なんて絶対絶対言ってくれないんだけど、僕にとっては最愛の人。


そして自分でも何がどうなったんだかよく分からないんだけど、僕と彼――そう、僕の妻は「彼」なんですが、まあそんなことはどうでもいいや――の間には、突如として2人の子供まで出来た。


だから今の僕には生まれて初めての、本当に血の通った家族がいる。


こんな幸せって、僕の不幸だらけの人生にやってくるわけないものだと思ってた。


でも、幸せって実は、すごく不安定で気まぐれなものだ。



これは、生まれて初めての幸せに翻弄されっぱなしの僕と愛する家族に起きた、たった一日の事件。





【「ダーリンは外国人」番外編―ダーリンは意地っ張り―】





「ふざけんなてめぇぇぶっ殺すぞ!!!」
「ちょ、ちょっと待ってください神田!落ち着いてください!」
「誰が落ち着けるか!!貴様今俺の蕎麦つゆに何を入れた!?」
「何も入れてません、ほんとです!!」
「じゃあこの白い錠剤は何だよ!?」
「かっ、カルシウムですカルシウム、ほら神田いっつも怒ってばっかりだから」
「誰のせいだと思ってやがるこのクソモヤシが!!」
「神田が照れ屋さんなせい?」
「貴様の脳みそがいかれてるせいに決まってんだろ!!つーかやっぱ何か入れてんじゃねぇかあああ!!」


それは最早名物と化した教団での一コマ。

底冷えする寒い朝っぱらから食堂のど真ん中でアレンに向かって怒り狂いながら愛刀の切っ先を突きつけるのは、その配偶者である神田。


そして少し離れたところから様子をじっと眺める、小さな影が二つ。


「ねぇお兄ちゃん、おとうさんたちまたけんかしてるね」
「とうさんたちのあれはけんかじゃなくて、あいじょーなんだって」


本来なら生まれる筈がないのにどういうわけだか突如としてこの世に生を受けた幼い兄妹。
「父親」によく似た、尤も髪は普通の茶色だし顔の傷も無い兄と、「母親」によく似た、ただし柔らかい目元だけは「父」似の妹。

二人にとって、両親の口喧嘩は太陽が昇って沈むのと同じくらい当たり前の現象だ。

「おとうさーん、おかあさーん、あそんでー」
「ねぇ、かあさーん」


小さな二人がとことこと駆け寄って行くと、怒り狂っていた神田の動きがすんでのところで止まり、アレンはほっと息をつく。


「何だ」
「いっしょにあそんでー」
「とうさん、トランプしよう!」
「はは、いいですよ。今日は何したい?」
「ポーカー!」
「おいてめぇモヤシ、ガキに何教えてやがるんだよ!?」
「何ってポーカーですよ、神田もやります?」
「嘘つくな!てめぇはポーカーじゃなくてイカサマ教えてるんだろうが!?」
「失礼ですね!僕が教えてるのは処世術です、子供には強く生きて欲しいじゃないですか!」
「だからそれをイカサマっつーんだろうがこの馬鹿!!」
「おかあさん、イカサマってなあにー?」


無垢な娘の問いかけに、神田の頬がぴくりと引きつった。

「それは……だな……」
「それは?」


 じーっと見つめられて神田の顔が少々青ざめた時、神田の頭上をふわふわ飛んでいたゴーレムが震えた。

「神田?通信ですよ」
「…あ、ああ」

少し慌てたように神田はそれに反応し、さっと三人から離れて何やら話しだした。

「…神田?」
「何でもねぇ、ほら、戻るぞ」

 そそくさと会話を終えた神田は少し早足になり、娘の手をとって歩いていく。

「……ねー神田?」

アレンの声が疑わしげに響く。

「何だよ」
「ちょっと前から気になってたんですけど」
「…何が」
「何で子供とは手を繋げるのに僕とはだめなんです?」
「……ああ?」

振り返ると、この世のものとは思えないほどふてくされた顔のアレンが神田を恨めしげに睨んでいる。

「だって!!もう僕ら新婚さんって呼べないくらい結婚してから経ったのに!手繋げないなんておかしいです!!」
「何でだよ!?」
「何でって何ですか!僕ら結婚してるんです夫婦なんです子持ちなんです、手だって繋ぎたいし抱きしめたいしキスだってしたいしそれ以上だってしたいんですよー!!」
「ばっ、子供の前で何言ってやがるんだ!!ふざけんな!!」
「神田が応じてくれないのが悪いんです、神田の馬鹿!!」
「馬鹿はどう考えても貴様だろうがこのクソ馬鹿モヤシ!!!」
「おかあさーん、はやくおへやかえろうよーう」
「とうさん、はやくかえってポーカーしようよー」


子供たちの声で我に返った二人は何とか表情を取り繕い、アレンは息子の、神田は娘の手を引いて歩いてゆく。


その間も神田はアレンの何やら勘ぐるような視線を感じていたが、気付かないふりをした。



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