アレ神・短編

□初恋知らず
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 自分のことは一番自分が知ってる。
当たり前のことだと思う。
君は分かってないよ、とあきれられるたび、そんなはずない、と反発した。

 そう、自分のことは良くわかってる。
だから今、自分がだいぶ戸惑っていることも、不愉快だけどきちんと理解している。


「だから、何で貴様なんだよ!」
「知りませんよ!僕に文句言わないでもらえません!?」


同行するファインダーのため息を尻目に、二人はいつもと同じ言い合いを繰り返す。

面白がっているのか何なのか、コムイはやたらと二人を組ませたがる。
もちろん当人たちにしてみれば大変迷惑な話であり、やめてくれと何度も頼んでいるのである。

しかし、一向に二人の任務は減らない。
むしろ増えている。

いくらコムイに文句を言っても笑顔で流されるだけだと学習した二人の苛立ちは否応なしに互いに向けられてゆく。

 
「大体神田みたいなうるさい人と毎回組まされる僕の気持ちわかります?」
「はっ、貴様の気持ちなんかわかってたまるか」
「でしょうね、神田の頭じゃわかりっこないでしょうよ」
「ああ!?」


やってられないと言わんばかりにアレンは首を振り、神田から視線をそらした。
その後ろ姿に何か吐き捨ててやろうと思って神田は口を開いたけれど、言葉がうまく出てこなかった。

何か場違いな言葉が喉から転がり落ちそうな気がして、思わず口を噤んでしまった。

 アレンも神田の勢いある反発を予測していたらしく、やや間があってから振り返った。
驚きを浮かべる顔と、その瞳が微かに揺れた様な気がした。

「…神田?」

名前を呼ばれてからはっとして、急いで取り繕う。

「ああ!?何だよ!?」

さっきよりもだいぶ棘の増えた口調に、アレンもあからさまに苛立ちを見せる。

「何でもありませんよ!僕が用もないのに神田に話しかけるわけないでしょ!」

今度こそアレンは身体ごとそっぽを向いた。
こっちこそ願い下げだ、と神田は吐き捨てた。

そう、こんな奴は願い下げだ。


呪われていて甘ったれていて癪な台詞ばかり吐くこんな奴、大嫌いだ。

さっさとくたばってしまえばいい。


それが自分の本音のはずなのに。
胸の奥に、小さな違和感を覚える。
何か違う音が響くような、そんな気がずっとしている。

 でもその音を表わす言葉は、今まで神田が必要としてきたものの中に見つけられない。
だからずっと違和感を持ったまま、だんだん音が大きくなっていく。

自分のことなのに、どうして自分でこんなに分からない。

 そう思いながら、神田はアレンをちらりと見やった。
幸か不幸か、同じタイミングでアレンも神田を見ていたから、はっきりと目が合ってしまった。


「見てんじゃねぇよ!」
「見てません!」


 ただ何となく最近気づいてきたのは、こいつに対して吐く言葉の大多数は、その音を抑えつけるためのものだということ。

けれどまだ、その音の名前はわからない。

ただ自分のことが分からなくなり始めたこと、その原因がこいつらしいことは、間違いなく不愉快だった。

Fin.

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