アレ神・短編
□星に願いを
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ねぇ、君はまだ、覚えていてくれている?
引っ越し作業というのは何度体験しても面倒なものだ。
6畳しかないワンルームの真ん中に山積みになっている段ボール達を眺めて、僕はため息をついた。
「一人暮らしなのにこの量…有り得ない」
高校時代の赤毛の親友がここにいたら、事実目の前に存在してるんだから有り得てるさ、なんてつまらない御託を並べてくれそうだ。
そんなことを考えながら、僕は一番手前の段ボールをよっこいしょと動かした。
こんなものをいつまでも放置していたら生活できない。
全部一人で広げなくてはいけないのは引っ越し代を節約した自分の責任だ。
そう己に言い聞かせると、頬を叩いて気合いを入れ、片付けを始めた。
どれだけ経っただろう。
まだカーテンが無い部屋の窓から見える外は真っ暗で、街灯が点っている。
中からも外からも丸見えというのはお互いに具合が悪い。
とりあえずカーテンだけは今日中に取り付けなくては、と思い、僕は残り数個になった段ボールを手当たり次第開けてカーテンを探し始めた。
「あ、あったあった…………あ」
目当てのカーテンで隠すようにして段ボールに入れてきたそれ。
引っ越しの度に要らないものは全て捨ててきたのに、何回引っ越してもどうしても捨てることが出来なかったそれらは、丁寧に紐でいくつかの束にまとめられ、カーテンに守られていたようにひっそり収まっていた。
まるで、すごく大切なもののように。
少しの逡巡の後にカーテンを脇に置いて、僕はそのうちの一つの束に手を伸ばした。
指先に当たるのは古ぼけた紙の感触。
それが過ぎた年月の長さを僕に無言で伝えてきて、僕はぎゅっと唇を噛んだ。
それは、古いものも新しいものも入り混じった、何の飾り気もない白い封筒の山。
いくつかある束のうちの半分は全部僕宛てだけれど、その住所はてんでばらばら。
そして残りの半分の封筒の宛名は、僕への手紙の差出人。そのうちのいくつかには宛先不明の赤いスタンプが無遠慮に押し付けられているが、それ以外には切手すら貼られていない。
「……きっともう、僕のことなんか覚えてないよね」
独り言を呟いて、僕は窓の外を見つめた。
部屋の明かりでガラスには僕のひどく寂しげな顔が映る。
そしてその向こうにある暗い夜空には、ただの一つも星は見えなかった。