アレ神・長編

□四季譚 ―夏―
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「こんにちはーっ」
「帰れ!!」

 挨拶した途端に怒鳴り声が返ってきた。
この反応にはもう慣れて来たので、アレンも負けずに言い返す。

「何ですか、来たばっかりの人間に向かって」
「誰も来てくれなんて言ってねぇさっさと行け帰れ二度と来るな」

神田は言葉を返さずそっぽを向いた。
もう、こんなやり取りが半ば日常と化している。


 梅雨、と呼ばれる季節が明けて、この国の夏が来る。
その証拠に、前より大分日が落ちるのが遅くなって、太陽が高くなった気がする。
尤も、一番太陽が高くなる夏至は本格的に暑くなる前なのだが。
だから、今日は、暑い。とても暑い。

「…にしても暑いですねー」
「言われなくたって分かってる」
「……部屋の中に入っちゃ駄目なんですか」
「入ったらぶっ飛ばす」

そう言われても、一度既に入っているんだけど。

 あの後最初に来た時、神田は縁側より内側には絶対入るなと言った。
確かによく知りもしない男を部屋に易々と入れるのもどうかと思うけれど、あまりの剣幕で言われたので「そこまで嫌わなくても」と少し悲しかった。

 だが、そうでは無いらしい。
正確に言えば、神田は誰一人として部屋に入れようとしないようだった。
リナリーも中に入った事は一度も無いと言し、コムイでさえ、ろくに入った事は無いと証言した。
それはすなわち行っても行っても診る事を拒否され続けるという事だが。


 ともかく、どんなに暑くてもアレンは室内には入れてもらえないのだった。
それでも庇が長い分、普通に外にいるよりは随分楽だ。

「そう言えば、身体どうですか、暑くて」
「生まれた時から何回も経験してるから慣れてるに決まってんだろ、てめぇみたいなひょろひょろのモヤシと違って」
「だからそのモヤシって何ですか!!」
「モヤシみたいに生っ白くてひょろひょろしてるからモヤシなんだろ、モヤシ」
「誰が生っ白くてひょろひょろですか、神田に言われたくないです!!」

どう見たって神田の方が日にも焼けていないし細っこいし華奢だ。
その神田に生っ白いだのひょろひょろだの言われる筋合いは無い。

「大体僕まだ一応15ですから、これから大きくなるんですよっ」
「15?」
「一応15歳ですよ。そう言う神田は何歳なんです?」
「こないだ18」


一瞬の沈黙が走る。


「…え?18歳?」
「そうだ」
「嘘!!もっと下だと思ってたのに!!18歳になんて見えませんよ!?まぁ僕よりは年上かなって思ってましたけど」
「五月蝿い!!」

 そう言うと神田はむすっとして顔を背けた。
元々悪い機嫌を損ねたか、或いはああ見えても多少気にしていたのか。
何にしても怒らせた事は間違いないらしい。


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