アレ神・長編

□四季譚 ―再び、春―
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 初めてここに来た日のそれとよく似た空は、綺麗に晴れ渡っていた。
違うのは、それに少しだけ自分の目線が近付いた事。
今日があの日では無いという事。
そして今、目の前にある筈の、自分が目指してきた場所が、全く違う姿に変わっている事。

「…どういう事?」

アレンは思わず、そんな言葉が口の端から漏らした。
前にここにあったのは、伝統的なこの国の、何度も何度も来た事のある見慣れた家だった筈だ。

 けれどそれが今は、立ち入るものを無言で阻むような洋館に変わっている。
その家の住人を示す札にも、見慣れた名前は書いていない。
道を間違えたのかと思ったけれど、辺りの家々から察する限りここで間違いない筈だ。
自分の記憶が相当狂っていない限りは。

 一番怖れていた可能性が、ふっと頭の中に広がっていく。
麗らかな暖かさとは裏腹に、ぞっとするような感情が背筋を走ろうとした時だった。

「やっぱりここにいた」

少し息を切らしたような、柔らかい女性の声。
聞き覚えのあるそれに、アレンは振り返った。

「………リナリー?」
「何で訊くの。勿論そうよ」

そう言って彼女はにっこりと笑う。
年月を経て大分大人びてはいるけれど、それでもその笑顔は前のままだ。

「いや、だって、5年も経ってるから…」
「私、そんなに変わって見えるの?」
「そうじゃないですけど」

アレンが言葉を濁すと、リナリーはくすくすと面白げに笑った。
その様子を見ながら、アレンは気になって仕方がない問いを口にした。

「あの…リナリー、ここ…」

相当不安げな顔をしていたのだろう、リナリーがほんの少し、心配するような顔になった。
けれど次の瞬間にはにっこりと笑った。

「大丈夫よ。アレンくんが心配してるような事には、なってないわ」

その言葉にほっとして思わず肩の力が抜ける。
けれどそれなら、探している相手はどこなのだろう。

「…じゃあ」
「とりあえず、私の家に来て。荷物持ったまま立ち話じゃ、大変でしょう?」

言われてみればその通りだ。
そう思って、アレンは素直にリナリーに従う事にした。
 けれど、アレンが進もうとしたのとリナリーが歩き出したのは全く正反対の方向だった。

「あれ?リナリー、こっちじゃ…」
「え?ああ、もうあの家には、住んでないの。今住んでるのは、こっちよ」

さっぱり聞いてないことだらけだ。


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