アレ神・長編

□ダーリンは外国人
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1.約束事

相手。
生まれた場所、不明。
本名、不明。
生まれた日、不明。
生まれた年、辛うじて推測できる程度。
ちなみに、無国籍。

自分。
生まれた場所、日本。
本名、神田ユウ。
生まれた日、6月6日。
生まれた年、多分こいつより3年早い。
日本国籍。


「何かこうやって並べると僕ってすごい謎の存在ですね」
「並べなくても不気味だ」
「不気味って何ですか!謎だからって不気味とは限りませんよ?」
「そこにイコール関係が成り立とうが成り立つまいが貴様は不気味だ!」
「酷いなぁ。僕だって人間なんだから一応傷つくんですよ?」
「人間だったのか、初めて知った」
「ちょっとぉ!初対面の時に僕そう言いましたよ!?」
「知らねぇ」
「…どれだけ僕の話聞いてないんですか、酷いなー、それが結婚する相手への態度ですか?」
「誰が結婚する相手だ!!」
「僕が!て言うかちゃんと了承したでしょ!?コムイさん達が証人ですよ、神を裏切る気ですか!」
「何でそこで神が出て来るんだよ、つーかまだ誓ってないから裏切った事にはならねぇだろ、モヤシ」
「僕を傷つける事になりますー。て言うか何で結婚する相手を名前で呼んでくれないんですか?」
「呼ぶ価値が無い」
「…」
「あと俺の事も名前で呼んだら斬り殺す」
「えっ、えぇぇぇ!?何でですか!?何で奥さんを名前で呼んじゃいけないんですか!文治国家ですよここ!」
「文治国家関係無ぇだろ!絶対呼ぶな。寒気がする。あと普段は旧姓で通す」
「……僕の事本当に愛してます?」
「自分で考えろよ」



出身地不明、生年月日不明、無国籍。
アレン・ウォーカー、これから一応夫。

モヤシに似ている。


2.食文化

とある夫妻の喧嘩。
夫「何でお前の味付けはいつもこんなに薄いんだ?」
妻「何言っているの、これが普通でしょう?」
夫「薄すぎるよ!大体、この肉じゃがのじゃが芋、火が通ってない!」
妻「嘘よ、私のはちゃんと通っているわ、ほら!」
夫「けどこっちのは固いんだよ!それに味が薄い!!」
妻「味濃いものばっかり食べてたら病気になるでしょ!」
夫「こんな薄味じゃ楽しみが無い!僕の家じゃもう少し味付けをするんだ!」
妻「何よ、そんなに気に入らないなら自分で作るかお義母さんに作ってもらえば良いじゃない!」
(以下続行)



「…なんて事は無いですけどね僕達は」
「つーか文句言ったら殺すからな」
「……物騒ですねぇ、そんなに軽々しく夫を殺すとか言っちゃいけないんですよー?分かりましたかー?」
「幼稚園児に言うような口調で喋るなぁぁ!!」
「食事中に叫んじゃ駄目ですよ、マナー違反ですよ!!日本は作法に厳しいんじゃないんですか!」
「てめぇ相手に作法も何もあるか!」

作法とは相手がいるいないに関わるものだったか。
訊いても真面目に返事をしてもらえそうにないから、僕の知識不足だと勝手に納得しておいた。

「ところで神田」

結婚する前から僕は「名前で呼ぶな」と言われた。
一応僕は伴侶の筈なんだけど、今でも名前を呼ばせてもらえないってどうなんだろう。
しかも指定された呼び名が旧姓ってどうなんだろう。

「朝ご飯作ってくれるのは嬉しいんですけどね?」
「てめぇに作らせたら何やるか分からないからだ」
「そんな酷い料理音痴みたいに言わないで下さい、出来る事は出来るんですから」
「何にしても貴様は和食の塩加減間違えるから作るな」
「分かりましたよ、で、神田」
「何だ」
「…何で僕の味噌汁にはいつもモヤシしか入ってないんです?そして何でいつも神田の味噌汁にはモヤシが絶対に入らないんです?」
ええ、それはもういじめの如く。
「決まってるだろ」
「…何が?」
「ささやかな意思表示だ」
そう言うと何事も無かったかのように神田は味噌汁を飲んで食事を終えた。


僕は神田を愛しています。
けど。
僕が本当に愛されているのかは、少し、疑問。


3.国際結婚の住宅事情

 リナリー・リー、エクソシスト。
最近、仕事仲間二人が職場結婚しました。



「ねぇ兄さん」
「何だいリナリー」
「エクソシスト同士の結婚って例があるの?」
「無いよー。そもそもエクソシスト自体少ないしね」
「じゃあ二人が一緒に住むとかそういうのも前例が無いんでしょ?どうするの?」
「…どうしよっか?」
「兄さん真面目に考えて」
「だって微妙な問題なんだもん。そりゃね、新婚なんだから二人だけで住まわせてもあげたいけど。教団から出す訳にもいかないからねぇ」
「今の措置はとりあえずなんでしょ?」

今の措置、とは教団の建物内部にある、唯一料理が部屋で出来る二人部屋に二人でいる事。
本来部屋は一人部屋が基本なのに、何故そんな部屋があったのか、私は知らない。

と言うか、教団の人間殆ど、今回の二人の話が持ち上がるまで知らなかった。何の目的で作ったんだかさっぱり分からない。

「もうそのとりあえずをこのまま突き通しちゃうとか…」
「けど…」
「て言うか結構上とも揉めたよー。エクソシストとしての任務がどうとかこうとかねぇ。何とか今の形に落ち着けたけど」

前例が無い事だからかもしれないけど、今に至るまでにひと悶着あった。
結局は、若い二人の幸せの為という極めて月並みな理由で何とかなったけれど。

「私は、出来れば他の場所に住まわせてもあげたいけど」
「そりゃ僕だってそうだけど」
「けど…」
「けど?」
「その、任務とかの事だけじゃなくて…やっぱりここにいさせた方が良いかなあって」
「何で?」
「だって、ほら」

そう言って私が指差した先には。

「おい待てモヤシ、マジで斬るぞ!」
「やややややめて下さい、そんなに簡単に人を殺めていいと思ってるんですか神田は!」
「貴様のような奴を人間扱い出来るかぁ!」
「酷い!て言うか何でそんなに怒るんですか!?」
「当たり前だろ!」
「何でですか、僕はただうたた寝してる神田に起きて下さいって言っただけでしょ!」
「言ってねぇ!」
「神田、奥さんにおはようってキスしちゃいけませんか!?イギリス生活長いでしょ!!?」
「イギリス生活長いのと寝てる人間起こす方法としてそれを許容するかは関係ねぇ!つーか貴様がやって許容できるか!」
「僕がって、…まさか神田浮気でもしてるんですか!?不貞ですか!!」
「貴様が24時間張り付いてるのにどこで浮気するんだよ!!アホか!」

「ね、兄さん。あれが日常茶飯事なのよ?放っておいたらそのうち本気で神田はアレンくん殺しちゃうよきっと」
「…そうだね」

暫く、私と兄さんは言葉を失くした。
相変わらず神田はアレンくんの胸倉に掴みかかっていた。

「あれで新婚なのよね?」
「そうだよ」
「結婚したのよね?」
「確か」
「…きっとあれね、喧嘩するほど仲が良いって」
「リナリー、今半分無理矢理納得したでしょ」
「兄さんだってそうでしょ?」
「…」
「…」

本当は、お互いに好きなんだとは知ってるけど。
いつか弾みで斬りそうで、少し心配。


4.夫婦喧嘩の実情

 だから、ここは緊急避難場所じゃないんだけど。
そう言って納得してくれる相手じゃないのはずっと前から知ってるけど。


「…ユウ?何しに来たんさ?」
「家出」
「は!?」

家出、と言われてもこの教団自体がホームと呼ばれる場所だから、この建物内のどこにいたって家の筈だが。

「何、またアレンと喧嘩?」
「喧嘩じゃねぇ。人権侵害だ」
「今更だろそれは」

それでも結婚したんじゃないのかと言うとまた怒り出しそうだからやめる。

「何されたの?」
「何されたって言うかあのクソモヤシの行動全てが俺の人権侵害だ」
「それは知ってる」

多分また傍目から見たらそう酷いわけでもなく、アレンにしてみれば純粋な愛情表現がユウには我慢できないだけだ。

「……仲良いな」
「は!?」
「ほら喧嘩するほど仲が良いって言うじゃん。あと好きな子は虐めたくなるとか」
「それは奴が一方的にけしかけてくる事であって俺はやってない」
「そうやってすぐムキになるから余計やられるんさ」
「無視したってあいつは来るんだよどこにだって!!」
「て言うかそんなに嫌なら何で結婚とか出来るんだよ?」
「…別に」
「あと、もうすぐ日付変わるから部屋帰って」
「は?何でだよ」
「いや、家出するのはユウの勝手だし仲直りするのは夫婦間の問題なんだけどね。日付変わってまでユウが俺の部屋にいるとさー、俺がアレンに殺されんだよね」
「…」
「俺が殺されたら喧嘩した時に頭冷やす場所無くなるから戻れって」
「別に頭冷やす必要なんて無い」
「ならさっさと戻るさ」

そう言ってドアを指差した瞬間。
ドアが、襲ってきた。

「神田!!」

血相変えたアレンがいた。
遅かったか。

「……何でこんな時間まで他の男の人の部屋にいるんですか!!浮気ですか!?」
「浮気っつーかそもそもてめぇの事を好きだなんて一度も言った覚えは無ぇ!」
「違います!夫婦には貞操義務っていうのがあるんですよ、知らないんですか神田!!ラビもラビです、人妻に手を出すってどういう了見してるんですかあなたは!見損ないましたよ!!」
「違う誤解だアレン!俺はユウに手出すどころか指一本触れてないから!そんな恐ろしい事してねぇよ!」
「恐ろしい事って何だよ!」

ユウが睨んだ。
お前の旦那に決まってんじゃん。

結局、事態が落ち着いて、三人でドアを直して、二人が部屋に戻るまでには朝方近くまでかかった。
偶に思う。
ユウ、何でこいつと結婚したの?


5.愛の誓い

 死ぬまで互いに愛し合う事を誓いますか?


「…で。何で俺はここに呼ばれたんだコムイ。そして何でお前らまでいるんだよ」
「神田だけじゃありませんよ、僕も呼ばれてますよ」
「黙ってろ」
「良いじゃない神田。兄さんが神田に訊きたい事があるんだって。私もラビもそれが気になるから聞きに来ただけ」
「無断で来るな!」
「無断じゃないさ、ちゃーんとコムイとアレンがオッケー出してる」
「…は?」

「そう、今回は僕とアレンくんの強い要望で神田くんにすばり質問会を開きたいと思いまーす」

「実は僕は呼ばれたんじゃなくて神田を呼んだんです」

「訊きたい事がありゃ普通にいつもベタベタベタベタくっついてる時にでも訊けよ!」
「だって神田僕一人が相手じゃいっつも無視するじゃないですかー、こんなに敵勢がいたら神田も無条件降伏するしか無いんですよー」
「敵勢!?」
「て言うか皆が訊きたがってるから正直に答えてね神田くん」
「だから何をだよ!!」
「何でユウはアレンと結婚したんですかーって事さ」

「………は?」
「…神田は…僕の事本当に愛してますか…?」
「何でいきなり重々しくなるんだよ」
「だって、名前で呼ぶなって言って、僕の事未だに名前で一度も呼んでくれなくて、且つ抱きしめるのもキスするのも駄目ってそれ恋人以下でしょ!?何で結婚してくれたんですか、嬉しいけど嬉しくないですよ!!どうなんです!」
「はっきり言っといた方が良いよ神田くん」
「…はっきり、って…」
「どうなんですか神田!あなたは本当に僕の事夫だって思ってますか、一生愛してくれますか!!ちなみに僕は一生どころか死んでも神田以外を愛すなんて絶対にしません!」
「それは見てれば分かるから構わないさ、アレン」
「で、どうなの、神田?」
「…………………別に」
「別に、何ですか?」
「……別に、………っ、五月蝿い、理由なんかあるか!」
「えぇぇぇ!?」
「無い!理由なんかいちいちつけてねぇんだよこっちは!」
「無茶です神田、じゃあ、理由は何でも良いですこの際。今現在僕の事好きですか!?今この瞬間キスされても文句言いませんか!?」
「言うに決まってんだろ、こんなとこじゃ!つーかこんな下らない事しか訊かないなら帰る!!」
「あ、待って下さい神田!」


「…行っちゃったね」
「行っちゃったわね」
「行っちゃたさ」
「……僕、愛されてると思いますか、皆…」
「何言ってるのアレンくん、めちゃくちゃ愛されてるって分からなかった今?」
「え?」
「人目があるところでいちゃいちゃするのは恥ずかしいんだよー、神田くんはそう言うの免疫無いからねー。だから二人きりの時なら構わないんでしょ本当は。それで構わないって事は愛されてるんだよ」
「…そういうもんですか?」
「そんなもんだよ」
「……ふぅん…」
「まぁ分かりにくいけどやっぱユウもアレンの事好きだったんだな、何かほっとした」
「え?」
「だってもしも好きじゃないならユウが可哀想過ぎるさー」
「…」


未だに、はっきり好きだとか言えた事は無いけど。
「……つーか、本当に嫌だったら結婚するかって気付かないのかあのバカモヤシ」

うちの夫は変。奇妙。不気味。
けど。
決して、嫌いなわけじゃありません。多分、これからも。
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