クロコム・短編

□失くした告解
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 人間は忘れがちだ。

 立っている場所は少し遠くても、ここが戦場の一部で、戦闘の真っ只中に身を置いているという事実を。

 昨日笑った顔が今日表情を失う可能性を。

 今日生きている僕が明日は僕でなくなるかもしれないことを。





 教団にエクソシストがやってくる形は様々だ。
イノセンス回収の際に一緒に見つかって連れて来られる場合もあるし、それ以外にふとした弾みに適合者である事が判明して連れて来られる者もいる。
自ら適合者である事に気付いてやって来る者、というのはまずいない。いる筈も無い。

 そしてやって来た適合者達は様々な表情をしている。
けれど大概の人間に共通するのは「神に選ばれた」なんて大それた言葉に多かれ少なかれ戸惑い、今まで知らなかったヴァチカンの裏の組織、黒の教団に圧倒される事だ。
彼もそうだった。よく覚えている。

 その日コムイは司令室にいた。
別にその日に限った話でもない。いつもそこで缶詰状態で仕事に追われているのだから。
コンコン、というノックの直後にドアが開いた。

「リーバーくん、返事が無いまま開けたらノックって意味無いと思うよ?」

コムイはその時取り掛かっていた仕事から少しだけ目を外し、ドアを開けたリーバーに文句を言った。

「すいません。たった今、スーマン・ダークが到着しました。すぐにここに来ますから」
「うん、分かった」
そう言ってコムイは頷いた。

 すぐ来る、という言葉は本当で、5分もしないうちにリーバーと共に彼はやって来た。

「…はじめまして」

床にはこれでもかとばかりに紙が散乱し、その床から天井までびっしり本が詰まり、その他にも色々な物がごちゃ混ぜになっている司令室で彼はどう振舞ったものか戸惑っているようだった。
一緒に来たリーバーが散乱している紙を平気で踏んづけていたからかもしれない。

「はじめまして。僕が科学班室長のコムイ・リーです」
「……スーマン…ダークです」

そう言って彼は笑った。
眉尻が下がった、少し困ったような笑顔だった。
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