クロコム・短編
□無限ループ
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僕の師匠は、変わった人だ。
格好も変だけれど、生活も変だ。
所謂変人の部類に入るのだと思う。
名前はクロス、姓はマリアン、職業はエクソシスト。
その日、僕はいつものように師匠の愛人の家の中で、僕に与えられた部屋にいた。
確か、僕が出会った中で数えると15人目の愛人で、イタリアの北部に住む料理屋の女主人で、リサという名前の人だった。
彼女の店は夕方開いて朝閉まる、夜の間だけ営業しているところで、その時は夕方に差し掛かるくらいの時刻だったからまだ開店には早く、彼女も家にいた。
知ったばかりの頃には相当な衝撃を受けた師匠の暮らしっぷりにもその時には慣れきってしまい、今更驚いたりだとか呆れたりだとかはしなかった。
それでも彼の愛人と二人きりでいるというのは正直気まずさがある。
そう、その時師匠は家にいなかった。
またどこかで女と遊んでいるのだろう。
それももう毎度の事で、僕はそれ自体には何とも思わなくなってしまった。
良いにしろ悪いにしろ、人間は繰り返し起こる出来事には大抵慣れてしまうものなのだと思う。
けれど、それを分かりながら愛人の家にいるというのは本当に居辛かった。
こんなに愛人がいて、更に彼女達に生活を助けてもらっている事自体どうかと思うが、せめて愛人がいるならその人と会えば良いのに、と思った。
何故目の前にいる愛人を放っておいて、他の女に走るのか。
そして何故そこに僕を置いていくのか。
勿論連れて行かれる方が何倍も嫌なのだが、独りで師匠が戻るのを待っている人と同じ空間にいるのは、やっぱり、慣れない。
もういつもの事なのに、それだけには僕は慣れられず、それだけが師匠への不信感だった。
部屋に籠もりっきりなのに疲れて僕は廊下に出た。
師匠が置いていったティムキャンピーが僕の後について飛んでくる。
外に出よう。
そう思って廊下を歩き、角を曲がって途中で一度曲がる、玄関に繋がる階段を半分ほど下りた時、僕はその行動を少し後悔した。
彼女、リサが階段の一番下に座ってじっと玄関を見つめている後姿が目に飛び込んだ。