クロコム・短編
□リリー・マルレーン
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室長室の床はいつもと変わらず、コムイがぐちゃぐちゃに散らかした書類でいっぱいだった。
何か違うことはと言えば、そのコムイが手を滑らせてポットに入っていたコーヒーを丸ごとぶちまけてしまったことである。
ポットが割れなかったのが不幸中の幸いである。
コーヒーが勿体ないだとか大事な書類を汚したかもしれないとかこんな状況をリーバー班長に発見されたらまたぶつぶつ言われるだとか、色々なことが咄嗟にコムイの頭を巡った。
とりあえず、誰かに発見される前に証拠隠滅を図らなくては。
そう思って掃除用具を探しに行こうとドアに足を向けた途端、ガチャリとドアノブが回り、コムイの心臓が跳ね上がった。
まずい。班長だったらまた怒られる。
しかし入ってきたのは、いつもよりさらに目の下の隈が悪化しているミランダだった。
「…み、ミランダか…」
「えっ、あっ、ごめんなさい、ノックもしないで!」
ミランダが慌ててドアを閉めようとするので、コムイは急いで引きとめた。
「あ、大丈夫大丈夫。今日の訓練終わったんだね。入って」
「は、はい…あら」
おどおどと室長室に入ったミランダの視線は、床に大きく広がるコーヒーの染みに移った。
それに気付いたコムイはあはは、と苦笑する。
「さっき手滑らしちゃったんだよね。リーバー班長に見つかる前に片付けなくちゃ」
「あ、あの、私も手伝っていいですか?」
「え?いいの?」
「はい、私昔からこういう失敗ばっかりだから、後始末つけるのは結構慣れてるんです」
ふふふ、と笑うミランダは何だか今にも倒れそうで、イノセンスを上手く扱う訓練に疲弊していることが見て取れた。
自分の不始末なのだから掃除は自分ですべきだし、少しでもミランダには休息をとらせてあげたいと思う。
しかしここで断ってしまうと、せっかくついた彼女の自信に傷をつけてしまうような気がした。
「じゃ、一緒に片付けお願いしていいかな」
「はい、私が道具持ってきますね」
ミランダは嬉しそうに笑って、道具を取りに部屋を出た。