クロコム・短編
□教育
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子供の無邪気さというのは時に凶器だ。
大人であれば暗黙のうちに理解できるものも子供には分からないし、触れてはいけないものがあるだなんて思ってもいない。
そんなことは僕自身よく承知しているつもりだった。
だが、やはり理解できていたわけではなかったのかもしれないと今さら思う。
背中を嫌な汗が伝うのが分かる。
多分今の僕の顔は引きつっているに違いない。
そして僕の内心の動揺も知らずに、10歳になったばかりの可愛い僕の妹は疑問符を浮かべて机の前に突っ立っている。
「聞いてる?兄さん」
「えっ、ああ、うん、聞いてる…よ?」
「じゃあ教えて」
リナリーはにこっと無邪気に笑う。
今まで僕は自分の持てる知識で彼女に与えても無害だと判断したものは、訊かれるままに答えてきた。
だが、今回ばかりはそう上手くもいかない。
「ねぇ、兄さんってば!」
「あー、うん、えっと、何だったっけ?」
「もう、何回も言ってるじゃない」
少し機嫌を損ねたリナリーは、ぷくっと頬を膨らませる。
子供らしくて可愛い仕草だけれど、今の僕にはそれを愛しく思う余裕すらない。
「クロス元帥って、部屋で女の人と何してるの?」
だなんて。