【 空と大地のヴィンクルム 】
□【1星球:物語の始まり】
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〜界王星〜
ココは、地球という惑星[ほし]と比べて重力が10倍もある、『界王星』という小さな星。
昼や夜もなく、太陽や月もないのに十分に明るいソコは、“我々”から見れば何とも不思議な星だった。
ソコには、桜色の髪を靡(なび)かせて、走り回る少女が1人―…。
彼女の名は『サクラ』。
端整な顔立ちではあるが、実はまだ10歳の女の子である。
不思議なことに、右の瞳は天(あま)色、左の瞳は緑色という見事なものだった。
そして、その小さな体のわりには、大きなペンダントが1つぶら下がっている。
七色に輝く宝珠のソレは、不思議な力が宿っているようだった…。
さて、実は今日は、“大きな出来事”が1つ起こる事になる………。
この日は…そう、後(のち)に“運命の日”と言っても過言ではない1日となるのだ。
特別何の日でもない、誰もが迎えるかのような普通の1日に、だ。
「何故(なぜ)だ」と問われれば答えは簡単―…。
1人の少女の“物語”が、今、始まるからである―………。
サクラ「お父さーーーん!」
北の界王「おおっ! わしの可愛い娘、サクラよ〜」
桜色の髪の少女・サクラの可愛らしい声が、辺りに響き渡る。
北の界王は、抱き着いてきた“愛娘”に、満面の笑みを見せた。
サクラ「ねぇお父さん。
もう修業をしに地球[げかい]へ下りて良いでしょ?
私、地球の神様にも約束したんだから!
『絶対地球に行く』って!
『沢山色んな事やりたい』って!」
北の界王「狽、、うむむ…
確かにまぁ、色んな事に挑戦するのは良いことだと思うが…まだ早過ぎはしないか?
第一、サクラはまだ10歳じゃろ。
―…また胸が“呪い”で痛くなってしまうかもしれんぞ!?」
サクラ「………」
サクラの胸には、実は『痛み[PAIN]』と印(しる)されている、“呪(シュ)の刻印”と呼ばれるものがあった。
十字架に象(かたど)られたソレは、小さいながらも確かな存在感があり、妙に気味が悪かった…。
その刻印は、この上ない激痛を“心に”与えるようで、今までに何度も“発動”してきた。
その度(たび)にサクラは、部屋の隅で痛みが過ぎるのを健気に耐えてきたのだ。
ソレのせいで心配が絶えないというのに、さらにこの幼さで見知らぬ惑星[とち]になど…。
義父[ちち]として、それなりの抵抗があるのも事実だった。
しかし、悲しい事かな…。
サクラはそんな義父[おや]の心配もはね除けて、どうにか許しを得ようと抗議を止めはしなかった。
サクラ「大丈夫! 前にも言ったでしょう? そんなに痛くないもの」
北の界王「し、しかしだなぁ…!」
北の界王は、尚(なお)もサクラを説得しようとする。
しかし、この幼き少女の意志は強かった…。
少女の目が、今、一瞬ではあるが…キラリと光った。
サクラ「ねぇ、お願いお父さん…」
胸の前で手を合わせ、潤んだ瞳を北の界王に向けるサクラ。
その姿は可愛い、確かに可愛い。
…だがしかし、こんなことで北銀河の神々の頂点に立つ者が騙されるわけ―。
北の界王「良し、行ってこい!」
騙されました。
サクラ「ホント!?
やったぁーー!
お父さん大好き
じゃあさっそく―」
北の界王「狽「ぃっ!?
も、もう行くのか?」
サクラ「もっちろん♪
“善は急げ”って言うでしょ?」
何処(どこ)で覚えたんだろうか、そんな難しい言葉…。
そんな少女は、家の中に走って行ったかと思うと、タンスの中から動きやすいラフな服を出し、素早くソレに着替えた。
修業の身となるのだから、持っていく物も特には必要ない(ペンダントは別らしいが)。
さぁ、準備は完了だ。
少女はそう思い、鏡の前で自分の姿を見ては、笑顔で頷(うなず)く…。
家から出ると、最後にサクラは、北の界王達とギュウッと抱き合い、互いの笑顔を確認した。
泣きはしない。
永遠の別れなんて、そんな大袈裟なものじゃないから。
でも、次に帰って来るその時まで、逢えないのも事実…。
今更ながらに感じたその寂しさを紛らわすかのように、サクラは界王星からピョンと飛び降りて、元気そうな声で言った。
サクラ「じゃあ、お父さんにバブルス君、行ってきまぁーーーす!!」
その笑顔は、少し泣きそうではあったが、何かに吹っ切れたような、清々しいものでもあった。
少女はその表情を崩すことなく、蛇の道を得意の«舞空術»で飛んでいったのだった…。
後には1人の義父[ちちおや]に、1匹の猿の姿だけが残された…。
北の界王「…行ってしまったのぅ、バブルス君」
バブルス「ウホッ」
北の界王「やれやれ、また暫(しばら)く寂しくなるわい。
しかし、我が娘ながら逞(たくま)しいのぅ。
だが―…やはり心配じゃ!
サクラに“変な虫”がつかなければ良いんじゃが………!」
北の界王は、サクラが旅立ってから、さっそくその親バカぶりを発揮した。
かくなるバブルス君も、その北の界王の心配事に、同意するように強く鳴いたのであった―…。
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