【 私の宝物 】

□【seeing through】
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2時間目の魔法史の授業が終わったところで、タマゴは自分の体調が「頗る(すこぶ)悪い」という事に確信を持った。

 
 終了の鐘が鳴り所々で欠伸や伸びをしたり、次の授業の話をしたりする生徒達が見える。
しかし彼女は一人よろめきながら立ち上がって羽ペンや教科書をしまっている。

 
──寒気。そして言い様の無い、身体全体にかかる怠さに吐き気。

タマゴは、『貧血』というものに直面していた。




 「タマゴ?」



 名前を呼ばれ、ハッとしたタマゴは振り向いた。
同じグリフィンドール生のハーマイオニー・グレンジャーは、怪訝そうな面持ちでタマゴの顔を覗き込んでいる。


 「タマゴ……あなた、どうしたの?顔が真っ青よ」


 眉をひそめ、心配そうに訊ねた。
その言葉にタマゴはぎくりとし、反射的に両頬を手で押さえた。

 

 「そ、そう?」

 「……具合が悪いの?」

 
「あ……ぜ、全然! 元気よ!
そうだ、私トイレに寄ってから行くから、先に行っててくれる?」


 「そう?それなら良いんだけれど…」


 そう言って少し強引に別れを告げ、
心配そうに離れて行くハーマイオニーに罪悪感を覚えたタマゴだった。

 


 鞄に授業道具を全てしまい終わると、タマゴは教室を出ながら小さなため息をついた。

友達はとても大切だ。しかし大切だからこそ、余計心配をかけたくないと考えるのがタマゴという少女の本音だった。


彼女は幼い頃からそうだった──体調が悪くても怪我をしても、知られまいと隠して余計悪化させてしまう。


 「急がなきゃ……」


 身体全体の体温が奪われる様な寒気に身を震わせ、3時間目の「魔法薬学」の授業の為に地下牢教室へと急いだ。


*







「グリフィンドール5点減点」


部屋に響く声はこの地下牢に負けないほど暗く冷たい。
スリザリンとの合同で授業を受けているグリフィンドールは授業開始から事あるごとに減点され続け、授業終盤である今では合計25点も減点されていた。


一方、タマゴは体調が優れないままだった。
薬の調合をしている最中だというのに、頭がぐらぐらとしていて教科書に書いてある調合過程が上手く頭に入って来ない。
タマゴは自力で読む事を諦め、淡々と教科書を朗読しているスネイプへと視線を移した。(聴いて理解すれば良いと考えたからだ)

スネイプはロンの横を通ると、視線はそのままに杖を振った。
たちまちロンの教科書が盛大にめくれ、今読んでいるページまでめくれるとピタリと大人しくなった。
ロンは目を見開き、固まっている。
まわりのグリフィンドール生は皆、減点されないだろうかとヒヤヒヤした面持ちでロンを盗み見ていた。タマゴはロンに視線を定めたまま、粉末の入ったグラスを手に取り鍋に入れた。


  
 「ミス・バーテンダー」

 
ハッとした時にはもう遅かった。

 
 「聞こえなかったか?ミス・バーテンダー」

 「はっ…はい!」

 「君は今鍋に何を入れたかと聞いている」

 「え?えっと……一角獣の角の粉末──あぁっ」


 その時、タマゴは自分が致命的なミスをおかしたことに気がついた。


 「教科書にはこう書いてある──『液が煮詰まってきたら必ず一角獣の角の粉末を初めに入れる』……君は教科書の文字が理解できなかったようですな?」


 ニガヨモギの粉末が加えられた鍋の中の液体は、たちまち失敗を意味する濁った色へと変色していった。
それを見ていた生徒の誰もが、更なる減点を確信した瞬間だった。

しかし───



 「……ミス・バーテンダー、君の愚かさ加減にはつくづく呆れる…このあとの居残りを覚悟しておきたまえ」


 「え……?」


 「はぁ……今回はこれまでだ。」


 減点をされなかったことにスネイプを抜かした全員が衝撃を受けたまま、3時間目の授業の終了を告げる鐘が鳴った。




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