破「おいクソガキ、その手を離せ」
舐「あ? 何意味分かんねぇことほざいてんだよおっさん。そっちが離せよ」
屁「どっちも離せバカ」
左手は破天荒に、右手はナメ郎に握り締められている俺ってなんだろう。凄く泣きたい。
破「マイスウィートエンジェルは今から俺と風呂に入るんだよ。邪魔すんな」
舐「ハァ? アンタはさっきあのトゲボールと一緒に入ってたじゃねぇか。マイスウィートエンジェルは今からオレと入るんだよ」
屁「ごめん俺は一人で風呂に入る予定なんだよね。つーかお前ら俺のことそんな意味不明な名称で呼んでたのか? 一種のイジメか何かか?」
破「良い名前だろ?」
屁「なんでそんな誇らしげなんだよ。バカなの?」
舐「ちなみに名付け親、オレだから」
屁「胸張って言うことじゃねぇよ。お前もバカだろ」
破「ハッハッハ何寝言言ってるのかなナメ郎きゅん。俺の方が先にヘッポコ丸が天使だということに気付いていたさ!」
舐「フン、知ったかぶりはいけねぇぜおっさん。白髪は天使じゃねぇ……エンジェルだ!」
屁「あーうん。ナメ郎って実は頭悪かったんだね。知らなかったよ」
天使とエンジェルは一緒だよナメ郎。
破「今日のために俺はお風呂に浮かばせるアヒルさん買ったんだぞ! 今更入らないなんて言わせねぇぞ!」
屁「良い歳したおっさんがアヒルなんか買うな! しかも今日のためにって何!? お前何時から俺との入浴目論んでたんだよ!」
破「えっ昨日」
屁「お前はもう少し言葉を選べ。今の発言じゃ何日も前から楽しみにしてたみたいだから」
まぁ一緒になんか入らないけども。
舐「はん、アヒルなんざ生温い。オレはお風呂で遊べるミニカーだ!」
屁「それがどうしたんだよ」
舐「クールだろ? 少なくともあのおっさんよりは」
屁「それをクールだと信じてるお前に同情する」
破「くそっ…悔しいけどカッコいい…!」
屁「なんでそんなに悔しそうなの!? せっかく買ってきたアヒルを粉々にしちゃうぐらい悔しいことなのか!? っていうかあれがカッコいいのか!?」
地に膝を付け、無惨に握り潰されたアヒルの残骸を辺りに撒き散らして破天荒は項垂れていた。一体どういう基準なのか分からない(というか分かりたくもない)が、どうやらあのミニカーは破天荒的にカッコいいらしい。全く理解出来ない。やはりバカと一般人では価値観に多大なズレが存在するようだ。
舐「じゃ、オレの勝ちだな。さぁ白髪、レッツバスタイムといこうか」
屁「勝ち負けの基準が不明なんだけど、どう決まったって俺はお前らと入浴はしないから」
舐「なんでだよ! せっかくオレ、お前のために頑張ったのに!」
屁「うん、ごめん、何を?」
破「そうはいくかクソガキめ!」
舐「チッ復活しやがったか」
破「へっくんの柔肌を直に拝むまで、この破天荒、死んでも死にきれぬ…!」
屁「お前下らないことに命賭けてるんだな」
いっそそのまま死ねば良いのに。
舐「フン、諦めろよおっさん。アンタの武器であるアヒルは消えた。アンタには、最早勝算なんて一パーセントも残ってないんだよ」
破「あぁ、確かに俺のアヒルさんは名誉の殉死をなされた。だがしかし、俺にはまだ切り札が残っている!」
舐「ば、バカな! そんなもの、残っているはずが…!」
ああ、なんだろうこの状況。俺完璧置き去りじゃない? ていうかこの中途半端に緊張感漂う状況が妙に腹立たしいのは何故だろうか。
破「アヒルさん、あなたの死は無駄にしない!」
思ったけどさ、アヒルを粉々にしたのって破天荒じゃなかった?
破「俺の最後の切り札……それは、これだー!」バーンッ
舐「そっそれは……あの幻のお風呂用玩具、『お風呂でメ●ちゃん』!!」
屁「なんかくだらねーの出たー!」
舐「クソッ…なんでアンタがそんな高等な玩具を…!」
破「これはなぁ、昨日おやびんから頂いたとても有り難い玩具なのだよ! そう! アヒルさんはこのメ●ちゃんのための前座だったのだ!」
屁「それがあったんならアヒル買わなくても良かったんじゃねぇのか?」
そして何より、二十四歳の成人男性が女の子用の人形を抱いてるという光景がやけにシュールで気持ち悪い。
舐「チッ、こうなったら…白髪!」
屁「あ?」
破「ヘッポコ丸!」
屁「なんだよ」
破&舐「お前はこのクソガキ/おっさんよりも俺/オレを選ぶよな!!??」
屁「もうお前ら二人で仲良く風呂に入ってろよ」
――――
どちらにしても迷宮入り
シド/罪木崩し