※五万ヒット企画小説










愛してる奴の全てを束縛したくなるのは、本当にソイツを愛しているからだ。愛しているからこそ、自分に縛り付けたくなる。自分だけを見ていてほしいと思う。余所見されるのをひどく毛嫌いする。自分だけのお前であってほしいと願う。これはきっと強欲な願い。根深い束縛癖。分かっている。分かってる。




分かっていてセーブ出来るのなら、人に欲なんてものは生まれない。セーブを遮る欲があるからこそこんな事を思うわけで、だから相手を縛り付けることに躊躇いを持たなくなる。それが悪だという事は自覚している。自覚…している。




けれど――





「抑えきれないのが、欲ってもんだよな?」




誰も知らない暗くて狭い部屋に、両手両足に鍵を掛けたお前を閉じ込めた。誰の目にも止まらぬように。誰の声も届かぬように。誰の手にも触れられぬように。




縛り付けたくて仕方無かった愛しい子。やっと、俺だけの君になった。




「は、てんこ…何、コレ…」
「嬉しいだろ? ヘッポコ丸。やっとお前は俺だけのお前になれた。邪魔者はもう居ない。何かに気を使う必要もない。お前はもう、俺以外の事を考えなくて済むんだ」




物理的に縛るんじゃなく、精神的に縛る。



鍵真拳なら、ヘッポコ丸の体に傷を残す事無く縛ることが出来る。今更ながら、自分の真拳に心底感謝する。それに加えてこうして言葉でじわじわと心を囲っていく。今まで俺以外の奴等に配慮しなくてはいけなかった。その必要がもう無い事を言い聞かせて、少しずつで良い、俺以外の事をわすれてくれればいい。俺がそうであったように、最愛の相手以外の事を脳内からデリートしていけば、お前は完全に俺のものだ――




「はっ…ふざけた事言ってんじゃねぇよ。俺は、確かにお前の恋人だよ。けど…だからって、こんなの、間違ってる!」
「なんでだ? お前、ずっとずっと俺以外の奴に掛かり切りだったじゃねぇか。俺だけがお前を独占していた訳じゃねぇ。それが俺は嫌だった」
「四六時中お前だけを考えてろって? そんなの無理に決まって――」
「いいや、無理じゃない」




ヘッポコ丸の言葉を遮って、断言する。




「俺はずっと、お前の事だけ考えてた」




ソッと柔らかな頬に触れる。触れた瞬間にビクリと体が強張ったのが分かる。瞳が恐怖と悲哀に濡れているのも分かった。だけどその理由が、俺には分からなかった。



怯える理由は? 恐がる理由は? 悲しむ理由は? 哀しむ理由は?




「俺は、お前さえ居ればそれで良い」
「はてん…?」
「お前は、違うのか?」





俺は、自分のした事が間違いだなんて思ってねぇ。これは正当な行いなんだ。積もりに積もった独占欲が正しい方法で発散されただけなんだから。俺は俺が歪んでると思ってない。こんな感情を抱くのは、人間として当たり前のことなんだ。欲深い――なんて、全ての人間に該当する言葉だろう?



だから俺は間違ってない。間違ってなんていない。間違いじゃない。そうさ、間違ってなんか――




「違わないよ」




この場に似つかわしくない程凜とした声で、ヘッポコ丸は言った。…言い切った、と表現しても良いぐらい、真っ直ぐな言葉だった。




「俺だって、お前が居れば良い。幸せだって思える。でも…それと同じぐらい、仲間も大事なんだ」




俺と、仲間。



天秤で測ろうとも、どちらが重いかなんて証明出来ない、同等の存在。




「ボーボボさんも、首領パッチも、ビュティも、天の助も、ソフトンさんも、田楽マンも、みんなみんな大事なんだよ。破天荒だって、そうじゃないのか?」
「………」
「全員が同等に大事だと思えなくても…少なくとも首領パッチは、俺と同じぐらい大事だろ?」




おやびん。


おやびん。




俺に生きる術を、与えてくれたお方――





「沈黙はイエスと取るぜ。だからさ、破天荒。お前だって、俺だけじゃないんだよ。大事な存在は、俺以外にも居るんだろ?」
「……そうだな、否定はしねぇよ」




否定なんてしない。それは事実だからだ。俺にはヘッポコ丸だけじゃない。我が師であり恩人である首領パッチおやびんが居る。大事なのは、ヘッポコ丸だけじゃない。




だけど――




「けど、独占したいと思うのはお前だけだ」




おやびんも確かに大事だ。だけど、俺だけのものにしたい訳じゃない。あの人は、誰かと居ることでより一層輝くヒトだから。




「本当に束縛したいと思ったのは、お前が初めてだぜ? なのに――お前は分かってくれないのか?」
「わ、かるもなにも…俺は、束縛したいなんて、思わない」
「俺はそうじゃねぇんだよ!」




気付けば怒鳴っていた。理解してくれないヘッポコ丸に妙に苛々して、触れていた頬に爪を立てて怒鳴っていた。皮膚を裂いて溢れる錆色。ヘッポコ丸の顔が痛みに歪む。




「お前と俺の想いの重さは違うんだよ! お前は平気なことが、俺にとって平気じゃねぇんだよ! お前が誰かと話すのも、じゃれるのも、一緒に居ることすら嫌なんだよ! だからこうやってお前を閉じ込めて縛り付けて俺しか見てほしくなかったんだ! なのにお前はのらりくらりとかわして理解しようとしねぇ! 束縛する理由が分からないぃ? それはお前が、俺のことを愛してないからじゃねぇのか!」




爆発した感情は簡単には静まらない。言いたいことを、思っていたことを全てぶちまけて、俺の頭はようやくまともな思考回路を取り戻し始める。一気に怒鳴り散らしたせいで酸欠となり、呼吸が苦しい。荒い息継ぎを繰り返している最中、ヘッポコ丸は何も言わなかった。




ただただ、泣きそうな顔で俺を見つめているだけだった。





「……軽蔑したか?」




静かに、自嘲しながら聞いた。こんな独占欲丸出しな醜い俺を、ヘッポコ丸は一体どう思うだろうか。こんな所に拉致監禁して、非情に拘束して、勝手にキレて言いたい放題で…いい加減、軽蔑されたって文句は言えない。



だけど、ヘッポコ丸はなんの侮蔑の言葉も吐かなかった。力無く首を左右に振って、否定を表して、言葉を紡いだ。




「軽蔑なんてしない。寧ろ、俺がお前に、謝らなくちゃいけない…」
「謝る…?」
「ごめん、破天荒…」




お前のこと、ちゃんと分かってあげられなくてごめん。




自由に動かせる首と頭部を器用に動かして、ヘッポコ丸の唇が俺の唇を塞いだ。手も足も使えないから体のバランスは上手くとれないだろうに、それでもヘッポコ丸は俺に口付けてきた。ほんの数秒触れただけだったけれど、とても暖かくて優しかった。


離れていったヘッポコ丸は、泣いていた。綺麗な真紅の瞳から、綺麗な雫を流していた。けど――笑っていた。




「そうだよな。それぐらい重い愛じゃなきゃ、こんなこと出来ないよな。なのに俺は、否定しかしなかった」
「ヘッポコ丸…?」
「最初から、素直に『嬉しい』っていうべきだった。この愛情表現を、素直に受け取るべきだった」
「……分かって、くれるのか?」




恐る恐るの問い掛けに、ヘッポコ丸はゆっくり頷いた。さっきまでの拒絶は、拒否は、一体何処に行ったのだろうか。




「ねぇ破天荒。お願いがあるんだ」
「お願い?」
「錠を、解いてほしいんだ。…これじゃあ、お前に抱き付くことも出来ない」
「錠を…」




ヘッポコ丸の頼み。俺はその言葉を反芻し、躊躇った。不安があったからだ。錠を解けば、ヘッポコ丸が逃げ出すんじゃないかって、疑ったからだ。




「大丈夫、逃げないよ」




俺の迷霧を読み取ったかのようにヘッポコ丸は言った。




「もう俺はお前から逃げない。その想いから目を背けない。約束する。だから…お願い、破天荒」
「…………分かった」




悩んだ末、俺はヘッポコ丸の錠を全て解除した。自由が戻った途端、ヘッポコ丸は俺を力一杯抱き締めてきた。幾時間振りの抱擁は、まるで何年もそうしていなかったかのような錯覚すら起こさせた。




暖かい。柔らかい。優しい。愛しい――あぁ、愛しい。




「ごめん、ごめんなヘッポコ丸。俺は、お前に…」
「ううん、良いよ。気にしてない。俺の方こそごめん。破天荒のこと、ちゃんと見てなくて」
「…ハハ、本当だぜ。この破天荒様をこんなにしておきながら放置とか、やったのはお前が初めてだ」
「良いじゃん。それぐらい、お前は俺が好きなんだろ?」




いたずらっ子のような笑みを浮かべながらヘッポコ丸は言う。俺は「生意気」と呟いてその唇を塞ぐ。驚きに見開かれた目はすぐに閉じて、与えられた口付けを余すことなく受け入れていた。






――俺の縛り方は間違っていた。皮肉にも、それに気付かせてくれたのは間違わせた張本人。…いや、間違わせたからこそ、コイツは正しい道に引き摺り戻してくれたのだろう。本当に、コイツは俺にとっての毒でありながら、同時に蜜のようだ。



だからこそ俺は、コイツを心から愛しているのだけれど。














――――
こんなにもあなたのことを思ってるのに
ポルノグラフィティ/瞳の奥を覗かせて



→どの辺りが甘いのか管理人には理解不能\(^^)/← しかも破天荒さん病み気味どころの話じゃないような気もする…あああなんて801な文章なんだ自分くたばれ! 幸子様、お待たせしてしまった上にこんな駄文で大変申し訳ありません(;ω;) 返品はいつでも受け付けておりますのでなんなりとおっしゃって下さい! 企画参加、本当にありがとうございました!!



2010/6/18 栞葉 朱那

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