行雲流水
□吹いたのは、
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ユウは青い闇の中で自転車を飛ばしていた。道の両脇には畑が広がっている。
背後にある西の空には紅い光が残っているも、あと数分で消え入るだろう。
立ちこぎするユウの動きに合わせて、一つにくくられた明るい色の髪が跳ねる。
自転車にしては速すぎるスピードで進むが、ユウは特に急いでいるわけではない。
確かに学校を出るのは少し遅くなってしまったが、今単に気分が高揚しているだけで、しかもそれに理由はなかった。
強いて理由を付けるなら、なんとなく良いことがある様な予感、だろうか。
歌まで歌っていたユウは唐突に急ブレーキをかけた。そして少しだけ道を戻る。
そこに草に埋もれるように、うずらの卵より一回りほど大きい漆黒の卵が落ちていた。
周囲も暗く、自転車のスピードも出していた。本来ならば見えないはずだが、心の琴線に引っかかったとでもいおうか、妙に意識が引き付けられた。
「なんだこれ…。……おもちゃ?」
そろそろと手を伸ばして持ち上げてみる。
「っ!?」
見かけによらず重い。想定外の重さだ。
片手で支えていた自転車がバランスを崩して倒れた。籠の中の荷物が畑の中に転がる。
こんなことならちゃんと止めておけば良かった。倒れた自転車を立て直すのはめんどくさい。
まぁ、いいか。
なんとか手のひらに乗せた卵を指先で軽く叩いた。
コツコツ
――コツコツ
返事が返ってきて、ユウは思わず卵をまじまじと見つめた。
コツコツ
――コツコツ
ユウの瞳が好奇心に輝いた。
卵の中には何がいるんだろう。
触った感じではこの卵はだいぶ固そうだ。
普通に割ろうとしても、割れないかもしれない。それならば。
ユウは立ち上がると、卵を目の高さまで持ち上げて、手を離した。
一直線にアスファルトへ向かって落ちていった卵は、かしんと音を立てて転がった。
「割れない、か」
――びしり
ユウが呟いた瞬間、卵全体にひびが入った。
卵のひびはぴしぴしと音を立てながら細かくなっていく。
ユウの見ている前で、卵は潰れるように壊れた。