行雲流水
□吹いたのは、
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『妖精』は様々な感情が揺れるユウの瞳をじっと見つめた。
少女の願いの一番深い場所を感じるために。
『妖精』が静かに口を開く。
「……決まった?」
問われて、ユウは少し首を傾げた。
「今、三つ言わないとダメ?」
「それは…願いが無いということ?」
『妖精』の言葉にそうではない、と返す。
「ただ、三つにならないだけ。二つはたぶん決まった」
他のことはきっと、自分の力で叶えられるから。
「いつまでもは無理だけど、次に私が来るときに三つ目を願うなら、しばらく猶予を与えてもいいわ」
「…ありがとう」
穏やかな優しい答えに、ユウは柔らかく笑った。
「一つ目の願いはね、もしも二つ目が叶ったら、というか叶うだろうから願うんだけど」
一度言葉を切って、ユウはどこか泣きそうにも見える顔で震える息を吸った。
「この世界から、…………僕の記憶を、消して、ほしい」
さすがに『妖精』は驚いた。
今まで彼女に出会った人間の願いとは、全く異質なものであったから。
言葉もない『妖精』を見て、ユウは自嘲めいた苦笑を小さく浮かべた。
だって、二つ目の願いが叶えば家族が泣く。
二人の妹は涙が枯れるほど泣くだろうし、母だって泣く。泣いている姿を想像できない父も悲嘆にくれるだろう。
友達だって悲しんでくれるかもしれない。
「僕は、薄情なんだよ」
だから、ちらとでも大切だと思ったものは傷つけたくない。
自分のせいで泣くのは嫌だ。
少女は、自分の中に残酷なほどの優しさが存在していることに、気付いていない。