行雲流水

□吹いたのは、
5ページ/6ページ


 『妖精』は様々な感情が揺れるユウの瞳をじっと見つめた。
 少女の願いの一番深い場所を感じるために。

 『妖精』が静かに口を開く。

「……決まった?」

 問われて、ユウは少し首を傾げた。

「今、三つ言わないとダメ?」
「それは…願いが無いということ?」

 『妖精』の言葉にそうではない、と返す。

「ただ、三つにならないだけ。二つはたぶん決まった」
 他のことはきっと、自分の力で叶えられるから。

「いつまでもは無理だけど、次に私が来るときに三つ目を願うなら、しばらく猶予を与えてもいいわ」
「…ありがとう」

 穏やかな優しい答えに、ユウは柔らかく笑った。

「一つ目の願いはね、もしも二つ目が叶ったら、というか叶うだろうから願うんだけど」

 一度言葉を切って、ユウはどこか泣きそうにも見える顔で震える息を吸った。

「この世界から、…………僕の記憶を、消して、ほしい」

 さすがに『妖精』は驚いた。
 今まで彼女に出会った人間の願いとは、全く異質なものであったから。

 言葉もない『妖精』を見て、ユウは自嘲めいた苦笑を小さく浮かべた。
 だって、二つ目の願いが叶えば家族が泣く。
 二人の妹は涙が枯れるほど泣くだろうし、母だって泣く。泣いている姿を想像できない父も悲嘆にくれるだろう。
 友達だって悲しんでくれるかもしれない。

「僕は、薄情なんだよ」

 だから、ちらとでも大切だと思ったものは傷つけたくない。
 自分のせいで泣くのは嫌だ。

 少女は、自分の中に残酷なほどの優しさが存在していることに、気付いていない。
  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ