行雲流水
□踏み出したのは、
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「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
食後の挨拶を済ませ、夢斗が食器を持って部屋から出て行った。
少し遅れてユウがきょろきょろしながら出る。七希もその後ろを歩く。
「研究所って広いもんなんだね、やっぱ」
「広くないと研究できねぇんだろ。俺が見たところは全部広かったし」
簡易キッチンに入った夢斗とは別の方向に進みながら、ユウは一室一室をのぞいて回った。
時々、昨夜会ったポケモン達を見かけてお礼を言ったりしたが、それ以外は特に誰とも会わなかった。
「なんか、静か…、あっはさみ」
ユウがたくさんの道具が置いてある部屋に入る。
何をするのだろう、と見ていた七希の前でユウははさみを手に取ると、躊躇いなく髪にすべらせた。
――しゃきん。
澄んだ音を立てて髪が肩のあたりで切り落とされる。掴んでいた手から零れた髪の毛がはらりと床に舞った。
「何やってんだ!?」
ユウの行動の意図が掴めなくて、七希は顔を驚愕の色に染める。
伸ばしていた、ということは、髪を大事にしていたわけではないのだろうか。
少なくとも、七希が今まで見てきた女性達は美しい髪を誇りにしていた者が多かった。
だからユウもそうなのだろうと思っていたのだが。
「後ろ髪を、引かれないように」
ユウがぽつりと呟く。
「これが、最後」
元いた世界との完全なる決別を願う。
どこか遠くを見つめる瞳で、静かに薄く笑った。