提出作品置場

□ただ自分を愛してほしかったんだ
1ページ/1ページ



皆のことが好きだと言う彼女が許せなかった。

彼女の“好き”を独り占めしていいのは俺だけだ。
彼女からの全ての愛を受け取っていいのは俺だけなのだ。
友愛も家族愛も慈愛も、なんなら愛憎も全て、全て、俺だけに向けられるべきなのである。俺だってその全てを惜しげもなく彼女だけに捧げてきたのだから。
無償の愛というのも悪くないが、与えているばかりでは寂しい。


「……な、ぜ?」

今にも泣きそうな顔を俺に向ける彼女に、俺は優しく微笑んでみせた。

「何が?」
「……っ、なぜ、私にこんなことする、ん、ですか?」

自分の足に掛けられた足枷を見ながら言うその声は震えていた。
……可哀想に。怖いんだね。悲しいんだね。でもね、全ては君が悪いんだよ。
微笑みながら、俺は彼女の白い頬を撫でる。すると、細い肩がビクリと跳ねた。

「君を愛してるんだ」
「ボ、ス、」
「君に愛されたいんだ」

耳元で囁くように言ってやれば、彼女が息を飲んだ。

「私は……愛してま」
「そんなんじゃ駄目だ」
「え……?」
「君の全ての愛が欲しい。俺を憎らしいと思うまで、愛して欲しい」

大きな目が見開かれた。
顔が青く染まっていく。
彼女が言いたいことが手にとるように分かった。“狂ってる”。

そうだよ、俺は狂ってる。
だけどこうさせたのは?
俺が勝手にこうなったとでも思っているのか?

「全部、君のせい」

大きく見開かれた目から、ついに大粒の涙が溢れ落ちた。

君のせいだ。最初はただ自分を愛してほしかったんだ。それだけだったんだ。
なのに君が皆のことが好きだなんて言うから。
君が俺だけに愛を注いでくれないから。

「早く俺だけを愛してよ、君になら……」

最初は無償の愛も悪くはないと思っていた。けれど与えるだけで見返りがないなんて寂しいし、フェアじゃないだろ?

「殺されたって悪くないんだから」

友愛、家族愛、慈愛、恋慕。
そして激しい愛憎の果てに、君の手で殺されるなら本望だ。


END


楽しく書かせて頂きました。
素敵な企画に参加させてくださり、ありがとうございました!
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ