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□逃げの果てには君を抱き締めん
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こんな親父に告白をする物好きがいるとは。



勤務中の交番で告白をされた本人、近藤滉造はそれを他人事のようにぼんやり考えた。

この田舎町の交番に勤務し腰を下ろして20年の月日が経った。
歳も45を過ぎ、結婚はもちろん色恋をするなどの考えからは遠退き一人者人生を過ごしてきた近藤に遅すぎるが一つの春が来た。
更に告白をしたのは近藤よりも一回り二回りも違う18歳。

しかし近藤は複雑な面持ちで目の前の茶を啜りながら告白相手の顔を見た。
決してこの緑茶が渋い、などといった理由ではない。

問題は告白した相手にあった。




「おっさん、俺の一世一代の告白なんだけど聞いてたか?」




「聞いてた…。最初から最後の一文字までな。」




はぁぁ、と深く溜め息をつき皺の刻まれた眉間を抑え、もう一度相手の顔を見た。
目の前に居るのは根元まで染まった金髪を後ろに流し、切れ長の瞳をぎらつかせ身をのり出したのは幾つもの刺繍の刻まれた黒の特攻服を着た所謂不良。
つまりは告白をしたのは男であり、しかも現役の暴走族の頭なのであった。

近藤はもう一度湯気の立つ茶を啜り額を指先で掻いた。




「翔緒……、何で俺なんだ?お前はこの町と隣町の族の頭で好きだと言う女の子は大勢いるだろう。こんな歳喰った親父を選ぶなんざ…」




そこまで言うと言葉を遮るように翔緒は立ち上がり二人の間を隔てていた机を周り近藤の目の前にしゃがみこみ見上げ口を開いた。




「そこら辺にいる女より俺はあんたが好きなんだ。別にあんたが四十過ぎのおっさんなんてとっくに知ってんだよ。そんなおっさんだろうと関係ねぇんだよ。なぁ、俺じゃ駄目か?」




近藤を見つめた彼の目からはその告白がただの悪ふざけや軽はずみなものではなく真剣なのだというのが不器用に並べられた言葉と共に伝わった。
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